本編
お父さんは私が4歳の頃、病気で亡くなってしまった。
正直に言って、お父さんとの思い出はほとんど思い出せない。
そしてお母さんも再婚はせずに、女手一つで私を育ててくれた。
だから、いつもお母さんは家にいなかった。
小学生の頃は、それで結構さみしい思いをした。
でも、私は自分を不幸だとは思ったことはない。
なぜなら、両親に愛されていることを感じていたから。
お母さんはどんなことがあっても、私の誕生日は仕事を休んで、私を祝ってくれた。
そして、お父さんからは誕生日レターが届く。
生前、お父さんが私へ向けて誕生日ごとのメッセージを吹き込んでくれていた。
「レナ。6歳のお誕生日と小学校、入学おめでとう。友達はたくさんできたかな? まだできてなくても大丈夫。レナならすぐにできるよ。それとね。友達はたくさん作らなくてもいい。本当に大切な友達が1人いればそれでいいんだ」
1年に1回、私の誕生日にお父さんに会える。
それだけで私は幸せだった。
「レナ。10歳のお誕生日、おめでとう。もう10歳か。本当に早いね。学校はどう? そろそろクラブ活動とか始めたころかな。レナのことだから、美術部とかに入って、思ったのと違うって思ってそうだね」
これにはちょっとびっくりした。
まさか、ぴったり当てられるなんて思わなかった。
さすがお父さん。
私のことなんて、お見通しだ。
「レナ。12歳の誕生日と中学校入学おめでとう。環境が変わって、少し戸惑ってるかな。でも、大丈夫。レナならすぐに友達もできるよ。もし、きっかけがないなら、吹奏楽部とか入ってみたらどうかな。部活なら友達ができやすいと思うよ」
お父さんの助言通り、私は中学では吹奏楽部に入った。
ちなみにお父さんには美術には飽きたことはバレているみたいだ。
吹奏楽部は本当に楽しかった。
すごくいい友達にも恵まれたし、コンクールでは銀賞もとれた。
本当にお父さんのいう通りにしてよかった。
「レナ。15歳の誕生日と高校入学おめでとう。第一志望の学校に落ちたとしても、それは気にしなくていいんだよ。学校に入ることよりも、学校でどんな思い出を残せるかのほうが大切なんだから。だから、しっかり勉強して、遊んで、部活もして、……恋愛はまだ早いと思うけど、とにかく楽しい高校生活を送るんだよ」
恋愛はまだ早いってところで、一緒に見ていたお母さんが噴き出して笑っていた。
全然、子供離れできてないんだからって、言ってた。
だけど、お母さんだって一緒だと思うな。
「レナ。18歳の誕生日と大学入学おめでとう。お母さんには、レナには大学まで行ってほしいって言ってたから、きっと大学に進学してるよね。お母さん、ここまでレナをちゃんと育ててくれてありがとう。レナ、今日から大人になったわけだけど、レナはお父さんたちの子供だということは変わらないんだからね。これからもずっとずっと、お父さんはレナとお母さんを愛してるから」
このメッセージを見たときは、お母さんと一緒にわんわんと泣いてしまった。
でも、それはうれし涙だし、幸せな涙だから、別にいいんだけどね。
「レナ。22歳の誕生日と就職おめでとう。これから社会人として大変だと思うけど、レナなら絶対に大丈夫だからね。そろそろ、一人暮らしとか始めたくなるころかな。でも、お母さんの説得は難しいかもね。お父さんからも、お母さんには言っておくよ」
本当にお父さんは私のことをわかっている。
お父さんはずっとずっと、私を見てくれているのだとわかる。
「レナ。25歳の誕生日と結婚おめでとう。レナが選んだ人だから、いい人で間違いないよ。レナにはずっと寂しい思いをさせてしまっていたけど、もう大丈夫だよね? お父さんからの誕生日レターはこれを最後にするよ。でも、これからもずっとずっと、天国からレナのことを見守ってるからね。レナ。幸せに」
私はそのメッセージを見て、涙が止まらなかった。
これでお父さんと会えるのは最後だ。
でも、お父さんのいう通り、これからもずっと私を見守り続けてくれるんだろう。
だから、私は寂しくないよ。
さよなら、お父さん。
終わり。
■解説
小学校から大学卒業までは年齢で予測することは可能である。
現に、誕生日レターは、精度はかなり高いが予測として話している。
しかし、結婚だけは年齢では予測がつかない。
それなのに、語り部の父親ははっきりと結婚する年齢を当てているのはおかしい。

