本編
学校の帰り道の路地裏に、死神が経営しているという骨董品のお店がある。
死神といっても、店主の見た目は優しそうな普通のおじいちゃんだ。
それが、なんで死神と言われるようになったのかというと、なんと『寿命』を買い取ってくれるかららしい。
おじいちゃんに「寿命を売りたい」と言えば、「何年分売ってくれるんだい?」と返されるから、売りたい年数を言えばいいだけなんだって。
大体、1年を1万で買ってくれるらしいから、美味しいと言えば美味しい。
しかも寿命を売ったところで、特に何か契約をさせられたり、なんかされたり、質問されたりとかは全くないらしい。
単に売りたい年数を言えば、その分、お金がもらえるだけ。
でも、そんなことでお金を渡すなんて、おじいさんには全くメリットがなさそうだけど、なんでそんなことをしているのだろうか。
このおじいちゃんは単なる大富豪でお金を余らせていて、若い子と話すためにそんなことをしてるんじゃないかって噂もある。
それでも、やっぱり本当に寿命が取られるんじゃないかと怖がって、お店に寄り付かない子もいれば、毎月のお小遣いをもらうように行っている子もいるようだ。
私はどちらかというと、少しだけ信じてる派で、寿命を売るなんてちょっと気持ち悪くて、行ってない。
そんなあるとき、うちの学校の生徒が、事故で亡くなった。
嘘かホントか、その子はおじいさんに50年の寿命を売ったなんて噂が流れた。
確かに、いつも派手な格好や新しい鞄なんかを持ってた子だったけど、いくらなんでもさすがに寿命を取られたなんて思えない。
とはいえ、このことがあってから、お店で寿命を売る人は激減したようだ。
私なんかも、利用するつもりはないし、そもそも、そのお店のことを忘れていたくらいだった。
そんなある日、推しのライブが近くの施設で開催が決定した。
こんなチャンスは滅多にないと思って、バイトのシフトも増やして、なんとかお金を用意しようとした。
でも、どうしても1万ほど足りない。
親に、お小遣いの前借を頼んだけど、お小遣いをもらわない代わりにバイト代を全部使えるという決まりだったから、そもそも前借ができなかった。
そこで、思い出したのが、あのお店のことだった。
寿命を売るなんて、ホントは気持ち悪くてやりたくなかったけど、1年だけなら大丈夫だろうと自分に言い聞かせた。
1年を1回だけ売る。
これが最初で最後だ。
そう決めて、お店に行き、おじいちゃんに「寿命を売りたいんですけど」と言った。
そしたらおじいさんがこう言った。
「買えないよ」
やっぱり、寿命を買ってくれるなんて噂は嘘だったらしい。
あーあ。
本気にした私がバカだった。
それにしてもお金、どうしよう。
なんか日雇いのバイトでもしようかな。
終わり。
■解説
おじいさんが寿命を買ってくれるという噂は嘘ではなく、また、もう買わなくなったわけでもない。
つまり、語り部の寿命が、「買うほど残ってない」から「買えない」と言ったのである。
語り部の寿命はもう1年も残ってないことになる。

