本編
私が住んでいるマンションの大家さんは、若いのに一生懸命なところがいい。
朝、私が出勤するときに部屋を出るときには、いつも廊下の掃除をしている。
そして、「いってらっしゃい。気を付けて」と声をかけてくれるのだ。
そんな些細なことでも嬉しかったりする。
一人暮らしだと、会社の人としか、お店の店員としか話さないから、なんていうかホッとするというか、気がまぎれたりするんだよね。
あとは、配達とかも預かってくれることもあって、帰ってきたときに「届いてましたよ」と渡してくれる。
これも本当に助かる。
仕事でほとんど家にいないし、休みの日は買い出しとかで家を空けることも多い。
だから、地味に再配達とか手続するのも大変だったりするのだ。
同僚からは、そういうのはやめた方がいいとか言われたけど、別に開けられた形跡もないし、あの誠実な大家さんが変なことするとも思えない。
そんなある日の休日のことだった。
なんか、隣がバタバタと騒々しい。
隣は空き室だったから、誰か入ったんだろう。
そう思ってたら、チャイムが押されて、出てみたら若い女の子だった。
「隣に引っ越してきました。今日はうるさくしてごめんなさい」
そう言って、お菓子を渡してくれた。
こうやって挨拶してくれたのと、私と同じくらいの年みたいだし、上手くやっていけそうだ。
お隣さんも大家さんも良い人だし、このマンションに引っ越してきて、本当によかった。
なんてことを思っていたら、いきなり、知らないお爺さんがやってきて、顔をしかめてこう言った。
「下の階の人から、平日のお昼がうるさいって苦情が来てるから、気を付けてください」
どうやら下の階の人には恵まれなかったようだ。
ただ、平日のお昼は部屋にいないんだけどな。
単なる嫌がらせかな?
■解説
やってきたお爺さんは「苦情が来ている」と言っていることから、下の階の人ではなく、『大家』だと考えられる。
そして、語り部はお爺さんを『知らない』と言っている。
ということはいつも朝に挨拶している、語り部が『大家さん』だと思っている若い男は『大家』ではないということになる。
では、その若い男は何者なのか?
さらに、語り部が部屋にいない『平日の昼の騒音』は一体、なんなのか。
もしかすると、若い男は語り部のストーカーで、平日の昼に部屋に入り込んでいるのかもしれない。

