サイトアイコン 意味が分かると怖い話【解説付き】

意味が分かると怖い話 解説付き Part21~30

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旗を振る男

私が住む村は小さく、さらに過疎化が進んできている。

この前、1つが閉校になり、ついに村に小学校は1つになってしまった。

 

こんな小さな村でも、悲しいことに事件は起こる。

子供の連れ去りだ。

 

犯人から何の連絡もないところから、金銭目的ではないようだ。

連れ去れたのは小学2年生の女児。

 

犯人が捕まっていないということもあり、親たちがしっかり監視していこうという話になった。

まず、生徒たちの登下校のときに、持ち回りで旗振りをすることが決まる。

 

私は仕事で忙しかったが、子供に何かあったらと考えると、参加せざるを得なかった。

しかも、うちは2人の子供がいる。

小学4年生と小学1年生だ。

 

つまり、長女の親としての当番と次女の親としての当番が回ってくるということだ。

最近は、あまり子供を作らないとのことで、子供が2人いるのはうちだけだった。

周りの家庭はみんな一人っ子ということになる。

なので、私だけが他の親より多く順番が回って来るように感じるが、文句を言うわけにもいかない。

 

そんな旗振りをする中で、凄く熱心に頑張っている人がいた。

中年というよりは、やや初老といった感じだろうか。

いつも優しそうな笑顔を浮かべて先導する姿は、子供たちにも大人気だ。

 

そして、いつも一緒の当番になることから、よく話すようになった。

何気ない世間話や、学校の行事の話、果ては誰と誰が不倫しているとか、そんな話をして仲良くなっていった。

 

さすがに私生活で会うことはなかったが、村の中で1番親しいのではないかと思うくらいだ。

 

親たちが旗振りをしているおかげか、再び事件は起きることはなく、やがて旗振りの当番も止めることとなった。

そして、何事もなく、下の子供も無事に卒業した。

 

それから数年後。

また、連れ去り事件が起こった。

 

そこで、再び、旗振りの当番が始まったらしい。

懐かしいなと思いながら、道を歩いていたら、あの人が旗振りをしていた。

何年も会っていなかったが、私たちはあのときと同じように会話を交わした。

久しぶりにあった友人との会話は、嬉しさと懐かしさを感じさせた。

 

そして、家への帰り道。

私はあることに気づいて、警察に通報した。

 

終わり。

解説

この村で2人以上の子供がいるのは語り部のみである。

また、語り部の次女は当時、小学1年生。

その次女が小学校を卒業しているはずなのに、この初老の男が旗振りをしているのはおかしい。

子供がいたとしても、卒業しているはずである。

また、2人以上の子供がいるのは語り部のみのはずで、他の親よりも多く当番が回って来ると言っているのに、その語り部と同じく旗振りの当番が来るはずがない。

つまり、この初老の男は「子供の親ではないのに旗振りをしている」ことになる。

……連れ去り事件で狙われているのは小学生ということと、この初老の男は子供たちに人気があることから、連れ去りの犯人は初老の男である可能性が高い。

 

ストーカー

大学に入ってから、すぐにストーカーにつきまとわれた。

私の前に出てくるのでもなく、陰からずっと、私を監視している。

被害といえば、毎日、私宛にどんなに好きかを書き綴ったものが送られてくる程度。

本当は部屋の中にも入られている気がするけど、これは証拠がない。

そんな程度の被害なので、警察も取り合ってくれない。

 

だから、私は引っ越しすることにした。

どこから情報が洩れるか分からないから、引っ越しのことは誰にも言っていない。

引っ越し作業自体も、業者に無理を言って早朝にパパっとやったくらいだ。

これでストーカーも、私がどこに行ったかはわからないはずだ。

 

とにかく早く見つけようとして、部屋探し自体は雑になっちゃったけど、いざ、引っ越してみると悪くない。

建物もしっかりしてるし、内装も割と好み。

ただ、ちょっと西日が強いのが欠点かな。

 

暑くなってきたので、エアコンを入れようとした。

だが、リモコンが見当たらない。

 

「最悪。今度、大家さんに言って、用意してもらわないと」

 

仕方ないので、エアコンなしで過ごすしかない。

今が秋で本当によかった。

 

数日後。

荷解きも終わり、少々足りないものもあるが部屋はそれなりに見れる状態になった。

これなら親友を呼べるかな。

 

小学校からの大親友。

ストーカーの件も、彼女がいなかったら、きっと精神的にもたなかったと思う。

 

明日は休みだし、パーっと朝まで一緒に騒ごうと思う。

連絡して一時間後、彼女がやってきた。

 

「へー、いいところじゃない」

「でしょ?」

「言ってくれれば、引っ越し、手伝ったのに」

「いやいや、悪いし、恥ずかしいでしょ」

「なーに? 私に見られて恥ずかしい物でも持ってるの?」

「ち、違うって!」

「ふーん。まあいいや。……はい。大量のお菓子。今日は朝まで盛り上がるんでしょ?」

「さっすが! よくわかってるじゃん!」

「あと、これ、エアコンのリモコン。うちと同じのだから、使えると思う」

「ありがとう! 助かるよー! 貰っておくね」

「ちょっとちょっと、貸すだけだから! 帰る時に持って帰るから!」

「ええー! 引っ越し祝いにちょうだいよ!」

「ダメだよ、あたしのエアコンが使えなくなるじゃん!」

「あははははは」

 

そんなバカなことを言いながら、親友と楽しい1日を過ごした。

 

終わり。

解説

語り部は引っ越す際、誰にも教えていない。

それなのに親友は、なぜ「エアコンのリモコンがない」ことと、「同じエアコン」だと知っていたのか。

親友はここに来る前から、語り部の部屋の中を見たことがあることになる。

その点からもストーカーは親友である可能性が高い。

 

特定屋

俺は特定屋をやっている。

最近、流行りのアレだ。

依頼があれば、SNSでアップされている写真から個人の情報を特定するっていうもの。

 

でも、誰でも彼でも受けるわけじゃない。

ターゲットが美人のときの場合のみ受ける。

 

それは自分が美人の情報を得たいから、というわけじゃない。

その逆だ。

 

俺は美人が嫌いだ。

人を見下し、騙し、平気で弄ぶ。

俺も随分と酷い目にあった。

これは復讐の意味を込めているのだ。

 

大体、特定屋を利用されるということは、その人に何かやったってことだ。

つまり、自業自得ってわけ。

俺みたいに慎ましく生きていれば、誰にも恨まれることは無い。

SNSに色々アップしても問題なし。

 

でも美人はダメだ。

何気なくアップした画像から、個人情報を丸裸にされる。

 

そして、今日もこのアカウントの特定をお願いしますって依頼が来る。

自分の美人への復讐を兼ねながら、お金を稼ぐ。

実に俺にピッタリの仕事ってわけだ。

 

そんなとき、少し変わった依頼が来た。

大量の写真の画像が送られて来て、その写真のおおよその場所を特定して欲しいというものだ。

普通はアカウントを指定してくるものだが……。

 

さらに変なのはその画像が加工されているってところ。

恐らく、そこに人物が写っているのだろうが、そこにモザイクがかけられていたり、消されていたりしている。

でも、これじゃ、相手が美人かどうかわからない。

依頼を受けるかどうかの基準が判定できない。

 

相手は結構な金額を提示してきたが、俺は金で動くわけじゃない。

ポリシーがある。

俺は相手の顔が知りたいと送った。

 

だが、相手はこの人の情報は、俺だけが知りたい。

あなたにも、知られたくないと返ってきた。

 

それなら依頼を受けることはできないと返すと、渋々、その人の画像が送られてきた。

確かに物凄い美人だ。

独り占めにしたい気持ちもわかる。

俺は依頼を受けると返答した。

 

この依頼は難航した。

人物のところが加工されていたから、純粋に風景からヒントを得るしかない。

実は、結構、人が写っている部分からもヒントを得られることが多いのだ。

だけど、たまには、こういう縛りも面白い。

 

俺は一週間をかけて、その場所を特定した。

なんと、俺の近所だったことに、少し驚いた。

まさか、近所にあんな美人が住んでいたとは。

そして俺は、依頼主に場所を知らせて報酬を受け取った。

 

次の日の仕事帰り。

俺が最寄駅から出た時だった。

いきなり、美人の女が目の前に立った。

見たことがあるような気がするが、誰だかわからない。

いきなり女はナイフを取り出し、俺の腹を深々と刺した。

 

周りからの悲鳴と、薄れゆく意識の中、女の「あんたのせいで……」という言葉を聞いた。

 

終わり。

解説

依頼人は最初、画像の人物を加工して語り部に送ったが、後に「人物だけ」の画像を送っている。

結局はターゲットの顔を語り部に教えたのに、加工前の画像を送り直していない。

加工で消されたところの人物と、個別に送った人物は同一ではない。

消されていた人物は「語り部自身」が写っていた。

つまり、語り部は、依頼されて「自分が住んでいる場所を特定」していた。

そして、依頼者は、語り部に特定されて、何かしらの被害を受けた女性。

女性は恨みによって、語り部を刺した。

 

双子の魂

ライザとミルザは双子の姉妹で、とても仲が良く、いつも一緒にいる。

 

ある日、2人が家で留守番をしていると強盗が家にやってきた。

二人はすぐに隠れるが、見つかってしまい、ライザは刺されて死んでしまう。

さらに強盗はミルザを刺そうとしたところで、親が帰ってきたため、強盗は逃げてしまう。

 

両親はミルザに犯人の特徴を聞こうとしたが、ミルザはあまりのショックのため、口が聞けない状態になってしまった。

その事件とミルザのことは、すぐに新聞に載り、強盗もそれを見ることになる。

 

強盗はミルザがショックから立ち直る前に始末しなければならないと考え、遠くから家を観察し始めた。

 

そんな状況を、魂となったライザが見ている。

早く何とかしないと、今度はミルザも殺されてしまう。

しかし、魂だけになってしまった自分には、どうしようもないと絶望してしまう。

 

そんなライザの前に天使がやってきて、こう言った。

 

「あなたを一度だけ、ミルザの体に入れることができます。ミルザの体に入れば、あなたが両親に強盗のことを話すことができますよ」

 

天使の話によると、これは誰にでもできることではなく、双子で魂の色が似ているから可能なのだという。

もちろん、ライザは天使にお願いをした。

 

ミルザの体に入ったライザは、両親に強盗の特徴を告げる。

その情報により、強盗はすぐに警察に捕まったのだった。

 

無事に自分の仇とミルザを守ることができた。

ライザは強い満足感に浸る。

 

そんなとき、再び天使がやってきた。

 

「さあ、天国に旅立ちましょう。体から出てきてください」

 

すると、体から1つの魂が出てくる。

 

「怖がることはありませんよ。行きましょう」

「……」

 

死は誰でも怖いもの。

幼ければその気持ちが強くなるのは当然のこと。

天使は沈黙する魂を連れて、天国へと旅立った。

 

その様子を見て、ライザはにっこりとほほ笑んだ。

 

終わり。

解説

天使が天国に連れて行ったのは「ミルザ」。

魂の色が似ているために、それに気付かなかった。

魂が沈黙しているのも、「事件のショックで口が聞けなくなっているミルザ」だということがわかる。

ミルザがショックを受けて話せないこと、魂の色が似ていることを知ったライザの策略によるものである。

 

エクソシスト

ミザは私にとって、天使だった。

どんなに落ち込んでいても、私に素敵な笑顔を向けてくれる。

だから、私は一生、ミザを守ろうと誓った。

 

ミザが7歳の頃。

突如、ミザが奇行し始めた。

 

両親は悪魔に取り憑かれた、なんて言っているけど、私は知っている。

2人が隠れてミザに虐待をしていたことを。

そのときのトラウマでミザは奇妙な行動をするようになってしまったのだ。

 

「お姉ちゃん。ミザ、おかしくなっちゃったの?」

 

ミザが不安そうに私を見る。

可愛そうなミザ。

 

大丈夫。私はどんなことがあってもミザの味方。

例え、笑えなくなってしまったとしても、ミザは私の天使。

それは変わらない。

 

だが、そんなある日。

両親は悪魔祓い……いわゆる、エクソシストを連れて来たのだ。

 

エクソシストはミザに対して、悪魔に取り憑かれていると言い出した。

悪魔を追い出せば元に戻る、そんなことを言っている。

 

なんという的外れ。

そんなことをしても、何の意味もない。

私は悪魔祓いを止めようとした。

 

……だけど、もしそれで、ミザにまた笑顔が戻るなら。

 

まさに藁にもすがる思いだった。

ミザにもう一度、笑顔が戻るなら、私はどうなってもいい。

 

だからお願い。

ミザ。もう一度、笑って。

 

エクソシストはミザの深層心理に語り掛ける。

心の奥にある、蓋をしているものを開かないといけない、と。

トラウマを克服しないと、悪魔は出て行かない、と。

 

エクソシストはミザのトラウマをこじ開け、抉った。

親に虐待されていたことを、無理やり思い出させている。

ミザが泣き始めた。

 

「お姉ちゃん! 助けて! いやだよ!」

「ダメだ! 逃げるんじゃない! 悪魔に頼ろうとするな! 乗り越えるんだ!」

「いやあああ! いやいやいや! 苦しい! 助けて! お姉ちゃん!」

 

エクソシストはさらにミザを追い詰める。

両親もその行為を黙って見ている。

 

期待した私が馬鹿だった。

これからは私が、私だけがミザを守り続けよう。

 

私は両親とエクソシストを殺した。

 

終わり。

解説

ミザがお姉ちゃんと呼んでいる、語り部が悪魔である。

 

予知夢

男の子は時々、予知夢を見ることがあった。

男の子が夢の話をすると、その通りになるってことで、最初は凄いと言われて、ちやほやされていた。

 

だが、そのうち、気持ち悪いって言われて、イジメられるようになった。

 

中でも、クラスのガキ大将が、その男の子を目の敵にして、事あるごとに意地悪をしていた。

そのイジメは次第にエスカレートしていく。

 

男の子は学校に行くのが嫌で、仮病を使って休もうとするが、母親に怒られて、渋々学校に行くという生活が続く。

男の子は、そのガキ大将が消えて欲しいと、常に思っていた。

 

そんなある日、男の子は予知夢を見る。

 

それはガキ大将が階段から落ちて、頭から血を流していて、それを上から見ているというものだ。

 

男の子は久しぶりに楽しい気持ちで学校へ向かった。

 

その手に残る感触を思い出しながら。

 

終わり。

解説

夢で見たのは、男の子がガキ大将を突き落としたというもの。

それは予知夢であるから、この日、男の子はガキ大将を階段から突き落としてしまう。

 

帰り道

最近は不景気のせいか、物騒な事件が多くなっていて困る。

つい、先日も通り魔によって、女性が殺害されたばかりだ。

 

しかも、その通り魔は連続でやっているらしく、2週間前と1ヶ月前の事件も同一犯じゃないかって言われている。

いずれも狙われているのは女性とのことだ。

警察は犯人を捕まえるどころか、まだ凶器さえも特定できてないらしい。

 

男の俺は狙われないだろうけど、絶対とは言えない。

気を付けることにしよう。

 

とはいえ、せいぜい、夜に出歩かないようにするくらいしかできないが、それも、会社の残業があれば、そういうわけにもいかない。

わざわざタクシーを使ったり、会社の近くのホテルに泊ったりなんてことはできない。

だから、結局は周りに気を付けながら歩くくらいだろうか。

 

そんなある日。

残業で遅くなり、家路を急いでいた時だった。

茂みから、血だらけの女性が飛び出してきた。

 

「助けてください! アイスピックを持った男にっ!」

 

視線を向けると、ガサガサと草が動いている。

どうやら犯人は逃げてしまったようだ。

 

俺は慌てて、救急車と警察に電話をする。

ほどなくして、警察がやってきて、俺は事情聴取をされることとなった。

あの、血だらけの女性は救急車に乗っていったのであろう、姿は見当たらなかった。

 

次の日、そのことがニュースになっていた。

犯人が男で、凶器はアイスピックを持っていたこと、また女性の犠牲者が出たことが報道されていた。

これで、犯人は捕まるだろうと、コメンテーターが自信満々に言っている。

 

よかった。これで、安心して、夜でも道を歩けそうだ。

 

その日の夜。

駅から出ると、昨日の女性が話しかけてきた。

 

「昨日、助けてくれたお礼がしたくて……」

 

これはちょっとした役得だ。

通り魔の犯人に感謝しないといけないかもな。

 

おわり。

解説

ニュースでは「また女性が犠牲になった」と報道されているのに、昨日の女性が話しかけてくるのはおかしい。

(草むらで動いていたのは、瀕死だった被害者の女性で、『血だらけ』だった女性は、返り血を浴びていただけ)

つまり、犯人は話しかけてきた女性ということになる。

また話しかけに来たと言うことは、この後、語り部は口封じされた可能性が高い。

留守番

夜の12時。

寝ていると、窓をコンコンとノックされる。

 

俺は最近、霊障とやらに悩まされている。

一週間前に友人と肝試しの為に心霊スポットに行ってからだ。

どうやら、ついて来てしまったらしい。

 

このところ、毎日、夜になると窓や壁をノックされたり、「入れて」と声をかけられたりする。

そのせいで、一週間の間、ほとんど寝ていない。

 

さらに厄介なところは、そのノックする音や声は俺以外の人には聞こえないということだ。

だから、精神的な病気じゃないかと言われてしまう。

 

だが、俺としてはどう考えても精神的なものではないと確信している。

というのも、窓に鍵をかけ忘れた際に、ゆっくりと窓が開き始めたのだ。

慌てて、窓を閉め、鍵を掛けると「どうして入れてくれないの?」という声も聞こえてきた。

こうなってくると、本当に気が狂いそうになる。

 

そんなとき、母親が、同窓会があるとか言って、出かけると言い出した。

父親が出張で家にいない状態で、母親まで家を空けるなんて、冗談じゃない。

なんとか説得をしてみたが、11時には帰って来るというところと好物のお寿司を買って来るから、と押し切られてしまった。

 

まあ、俺ももう大学生だ。

こんな我儘を言い続けるわけにはいかない。

 

夕方になると母親が出かけていく。

大丈夫。6時間くらい耐えればいいだけだ。

 

母親が出て行ってからは、部屋に閉じこもって、布団を被る。

もちろん、窓やドアに鍵がかかっていることは確認済みだ。

 

寝ていなかったせいか、少しうとうとしていると、突然、インターフォンが鳴った。

一気に、心臓の鼓動が高くなる。

まだ、時間は7時。

こんな時間から、霊が現れることなんて今までなかった。

まさか、俺が家に一人だと言うことを知って、狙ってきたのだろうか。

 

再び、インターフォンが鳴る。

恐る恐る、ドアののぞき穴から見ると、配達員だった。

ドアを開けて、荷物を受け取る。

 

もう、配達が来るなら言っておいてくれよ。

俺は安堵して、再び部屋に入って布団を被る。

すると、いつの間にか眠ってしまっていた。

 

目を覚ますと、夜の11時。

そろそろ母親が帰って来るはずだ。

それに、この時間なら、まだ霊は現れないだろう。

 

トイレに向かおうと廊下を歩くと、リビングの電気が付いていた。

ドア越しに母親に声をかける。

 

「あれ? 母さん。帰って来てたのー?」

「うん。早く解散になっちゃって。それより、お腹空いたんじゃない?」

「あー、うん。減った」

「ハンバーグ作ったから、ご飯にしましょ」

「トイレ行ってからねー」

 

トイレに向かっていると、突如、ドンドンドンとドアが激しくノックされた。

一気に心臓が跳ね上がる。

 

「お願―い! そこにいるんでしょ! 玄関のドア、開けてー」

 

母親の声だ。

 

嘘だろ。こんなことも出来るのか?

 

「鍵を落としちゃったの。開けてー」

 

危ない。

先に母親が家に帰って来ていなかったら騙されて開けるところだった。

 

だが、さらにドンドンと激しくノックされる。

 

早く、母親の所へ戻ろうと思った時だった。

 

「開けちゃダメよ! 早くこっち来なさい!」

 

リビングから母親の声が聞こえた。

 

俺は慌てて、玄関のドアを開けた。

 

終わり。

解説

霊のノック音と声は、語り部以外には聞こえないはず。

それなのに、「開けちゃダメ」と言ったところから、リビングにいる方が幽霊。

さらに、母親は「寿司」を買って来ると言ったのに、「ハンバーグ」を用意しているところもおかしい。

 

ただいま

俺はまさに、人生の絶頂だった。

娘が生まれ、事業も成功し、まさに順風満帆だ。

ただ、問題があるとするなら、事業が上手くいきすぎて、日々、世界中を飛び回っていてあまり家族と会えないくらいだろうか。

そして、今日も飛行機で国をまたいで移動する。

天候は晴れで、事故なんか起こる要素はまるでなかったはずだった。

しかし、俺は今までで運を使い切ってしまったのだろうか。

機体の不具合で、飛行機が墜落してしまった。

味わったことのない恐怖。

墜落の瞬間まで、頭の中は家族のことでいっぱいだった。

家族の元へ帰りたい。帰れれば、他はどうでもいい。とにかく帰りたい。

それだけを願い続けていた。

気付くと、俺はどこかの浜辺に流れ着いていた。

どうやら、俺の運もわずかながら残っていたらしい。

しかし、体を強く打ってしまったからなのか、全く体が動かない。

そんなとき、近くを通りかかった子供が大声を上げて走っていく。

しばらくすると、大人を連れて戻ってきてくれる。

俺を助けてくれた男は、俺が飛行機事故に遭ったことを調べ上げてくれた。

「私が、家に連れて行ってあげましょう」

助かった。体が動かない俺は、この男の献身的な好意に感謝してもしきれない。

車に乗り、家へと向かう。

見慣れた街並みなのに、どこか懐かしい感じがする。

そして、ついに俺の家へと着いた。

男はインターフォンを押す。

しばらくすると、初老の女性が家から出て来た。

どこかで見たような気がするが、見覚えはない。

すると初老の女性は涙を流して、こう言った。

「おかえりなさい。パパ」

終わり。

解説

語り部の男は飛行機の事故で亡くなっている。

浜辺に打ち上げられたのは、語り部の頭蓋骨。

子供が声を上げて走って行ったのと、体が動かないというのもそのため。

浜辺に打ち上げられる間に、70年以上経ってしまっていたということになる。

 

バー

ここはどこにでもあるような、普通のバー。

時刻はもう12時を回り、客もほとんどいないというか1人だけだ。

平日ということもあるが、最近は夜の人出はめっきり減ってしまった。

考えてみると、私自身もあまり出歩かなくなったことに気づく。

そのせいかわからないが、随分とストレスが溜まってきている気がする。

どうしても酒の量が多くなってしまう。

帰って飲むか。

そう思っていると、目の前にウィスキーが入ったグラスが置かれた。

見るとなんとも人の好さそうな初老の男性が微笑んでいる。

「私からの奢りです」

「いえいえ! いいですよ、そんな!」

「いいじゃないですか。お酒は誰かと一緒に飲んだ方が美味しいですから」

「では……お言葉に甘えて」

私は目の前のウィスキーをグッと煽った。

「ふふ。いい飲みっぷりですね。気に入りました。今日は全部、私の奢りということで」

「いえいえいえ! いけませんよ、そんなことは!」

「その代わり、話に付き合ってください。今日は語り合いたい気分でして」

それからは、その男性と楽しいお酒を飲んだ。

彼はかなりお酒が強いみたいで、飲み続けているのに全く酔っている気配がない。

「いやあ、あなたが男性で良かったです」

「え? どういうことですか?」

「ほら、もし、女性だったら何か下心があると思われてしまうでしょう? でも、男同士なら気兼ねなく、お酒を勧められます」

彼が笑みを浮かべながらウィスキーを飲む。

本当に楽しそうにお酒を飲む人だ。

私も、ついつい、彼につられて酒が進んでしまう。

気が付くと、朝になっていた。

いつの間にか酔いつぶれていたらしい。

周りを見渡すが、当然のように彼の姿はない。

そして、私のすぐ横に、一枚のメモが置かれていた。

『ご馳走様でした』

――やられた。

私は大きく、ため息をついた。

終わり。

解説

バーの中にはお客は「1人だけ」というところから、客は「初老の男性」である。

つまり、語り部の男性はバーの「マスター」ということになる。

客からお酒を勧められて、飲んでしまい、酔いつぶれてしまったことにより、初老の男性に飲み逃げされてしまった。

 

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