■本編
男の家では番犬を飼っていた。
その犬は家族以外の人間に酷く吠えることもあり、近隣の人たちに評判が悪かった。
通りかかるだけで吠えられ、声を上げて驚く人も多い。
なので、近隣の住人はその家の前を極力通らないようにしていた。
そんな悪い噂も、男の耳には入らなかった。
なぜなら、男はIT企業の社長をしていて、仕事で忙しくてあまり家に帰っていなかったからだ。
だから、いつも男の妻が周りから嫌味を言われることに心を痛めて、家に引きこもるようになった。
男と妻の間には3歳の息子がいたが、妻が家に引きこもってることもあり、息子もほとんど外に出ることがなかった。
そんな中、男の一家に強盗が入り、一家が皆殺しにされた。
妻と子供は何度も刺されていて、男は首を切られて絶命していた。
警察の調べでは、犯人は庭からの窓から侵入して妻と子供を殺してから、家の中を漁り、そして最後の男を殺したようだった。
しかし、犯人が金目の物を取った形跡はなかった。
というより、取る物がなかったようだった。
そして、何より不思議だったのが、一家が襲われた際に番犬の犬の吠える声を隣人は誰も聞いていないということだった。
終わり。
■解説
番犬は『家族以外』の人間に吠えるということから、犯人はその家族ということになる。
先に妻が殺害されているということから、犯人は男と言うことになる。
つまり、男は無理心中を図った。
IT会社の社長なのに、忙しさで家に帰れないところと、家に盗む物がないというところから、男の会社は倒産寸前だった可能性が高い。