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【洒落怖】出てこれない

<洒落にならない怖い話一覧>

〈前の話へ:その家族は顔認証されない〉

これは友人Wの同僚から聞いた話。

Wはひきこもり支援センターで働いていた。
最近はひきこもりの数が多くなっているみたいで、Wの地域でも問題になっている。

そのせいもあってか、問い合わせの数が日に日に増していって、職員は毎日、いろいろな家に飛び回っていた。
もちろん、Wもいつも残業続きだった。

だけど、そんなある日のこと。
いつもは昼ご飯を食べる時間もないくらい忙しいのだが、その日に限ってはなぜかWにだけ仕事が回って来ない。
部署の島にポツンと一人残っている状況は、周りの部署から見たらWだけサボっているように見えたかもしれない。

そんな中、一本の電話がかかってくる。
呼び出し音が鳴り続けても誰も出ようとしない。
なので、仕方なくWが受話器を取った。

Wは部署内の掲示板に行き先を書いて、すぐに出て行った。

到着したところは、大きかったが、どこか古い一軒家だった。
チャイムを押すと、すぐに60代の老夫婦が出てきた。

話を聞くと、40代の息子がずっと部屋に引きこもっているから、なんとか出てくるように説得してほしいとのことだ。

Wはすぐに、息子の部屋に向かった。
その部屋はよくある部屋のドアではなく、襖のような扉で横にスライドさせるタイプのものだった。
その扉には鍵のようなものは見当たらない。
なので、Wは、中にいる息子に対して名乗り、「開けますよ」と声をかけた後に、扉を開けようとした。

だが、扉はまるで鉄で出来た扉のようにビクともしなかった。
どう見ても、紙の素材で出来ているのに、信じられないくらい重く感じる。

Wは老夫婦に鍵はついていないかを確認したが、首を横に振られた。
おそらくは部屋の中からスライドさせないように、棒でも挟んでいるのだろうと思った。

こういうケースは珍しくなく、そもそも簡単に開くようなら、わざわざ支援センターに相談したりしない。

そこでWはいつも通り、扉の外から中にいる息子に向かって説得を始めた。
部屋から出なくてもいいから、とにかく部屋の中に入らせてほしいというが、反応すらない。
Wは次に、同じような悩みを持った人を何人も見てきたと話し、話をするだけでも気が紛れると説得し続ける。

だが、まったく部屋の中から反応がない。
そもそも、本当に部屋の中に誰かいるのか怪しいくらい無反応だった。

そこで、Wは両親である老夫婦に、ご飯やトイレのときはどうしているのかを聞こうと振り返る。
しかし、そこには老夫婦の姿はなかった。
いつの間にか、居間にでも戻ったのかもしれない。

一応、呼んでみたが返事がない。

いい加減だと思うかもしれないが、意外とこういう親は珍しくない。
子供を説得するのに疲れ、子供に対してどう接していいかもわからず、子供の顔を見ることすら怖くなるのだ。

Wは扉の前に座り込み、声をかけ続ける。
幸い、今日はここ以外の案件はない。
時間はたっぷりと使える。
そう思って、2時間くらい、一方的に話した。

さすがに疲れてきて、小休憩でも挟もうと思い、立ち上がったときだった。

バン!
ガリガリガリ!

扉を叩いて、引っ搔くような音が聞こえた。
それはまるで鉄を叩き、引っ搔くような音だった。

音が聞こえる位置からして、扉を叩いたり引っかいたりしているようだが、扉は鉄製ではない。

おかしいと思い、Wはどうしたんですか、と問いかける。
すると。

「……出して」

そうつぶやく男の声が聞こえた。

出して。

その言葉を聞いたとき、Wはおかしいと思った。
依頼は息子を部屋から出してほしいというものだったはず。
部屋の中にいる息子のほうから「出して」というのは明らかに変だ。

Wは中に向かって、扉を開けるから、開かないようにするための棒を取ってくれと言う。
だけど、中からはずっと「出して。出して」というつぶやき声しか聞こえない。

Wは再度、扉を開こうとするが、やっぱりビクともしない。
それでも、何度も開けようと扉をスライドさせようとする。

すると中から聞こえてくる声と、叩く音や引っ掻く音が大きくなってくる。

「出して! 早く! 出して! 出して!」

手が怪我するんじゃないかと思うくらい、激しく扉を叩き、引っ搔いている。
もしかすると、爪が剥がれたんじゃないかと思うくらい、強く引っ掻く音がする。

Wは扉を壊すことにした。
中から聞こえてくる音からして、扉の内側には鉄板でも貼っているのかもしれないと思いながらも、思い切り扉を蹴る。

すると、乾いた音を立てて扉に穴が開いた。
その瞬間、それまでびくともしなかった扉が、ひとりでに横へ滑った。

中の様子を見て、Wは絶句する。

窓は内側から板で塞がれていて、部屋の中にはベッド以外には何もない。
時計も机もカーテンもない。
そして、天井からは豆電球しかついてなく、部屋の中は薄暗かった。
壁は引っ掻いたような血の跡で埋め尽くされていた。

そして、Wにすがりついてきたのは、老夫婦よりも年老いて見える男だった。

Wはすぐに息子は引きこもりではなく、親に虐待されていたのだと思った。

警察に電話しようとスマホを取り出した瞬間、上司から電話がかかってきた。
Wはこのことを上司に言うと、返ってきた言葉は意外にも「すぐに戻ってこい」だった。
Wはとにかく警察に連絡するべきだと言うが「とにかく、何もしないで戻ってこい」の一点張りだ。

Wは男を落ち着かせようと声を掛けようとした、その時だった。
さっきまですがりついていたはずの男がいなくなっている。

部屋の中を見渡すが、どこにもいない。
そして、家じゅうを見て回るが、男はもちろん、老夫婦の姿すら見当たらなかった。

不思議に思いながらも、Wはとりあえずセンターに戻ることにした。

再度、上司にあの家で起こったことを話すが、「疲れてるんだ。明日は有休をとれ」と言われる。
納得がいかないWだったが、戻ってきていた同僚に言われて、理解した。

Wが行っていた場所には家なんかなく、今は駐車場になっている。
だが、その駐車場は誰も契約していないので、空き地状態になっているとのことだった。

最新の地図アプリで確認しても、そこには駐車場しか映っていなかった。

そして、Wは疲れているということは自覚しているので、上司の言葉に甘え、有休を取ることにした。
ただ、その前に、一応、あの家であったことを報告書にまとめた。
上司はその報告書を見て、苦笑いしながら「さすがに上には提出できないぞ」と言った。
Wも、自分で書いていて、そうなるだろうなと思っていたので反論はしなかった。

その後、Wは2日間の有休を取った。
しかし、3ヵ月経った今でも、Wは出勤していないらしい。
今はWの両親から警察に捜索願いが出されている。

そして、後でWの同僚が確認したところ、その時間帯にセンターへ相談の電話が入った記録はなかったらしい。

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