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これは前の職場の話なんだけど。
その頃は結構、職場の人たちとお昼に行ったり飲みに行ったりしてたんだ。
今の俺からしたら意外かと思うかもしれないけどね。
今は全然行かないからさ。
誘われても断るくらいだから、職場の人たちからは付き合いが悪い人って思われてるだろうね。
まあ、こっちからしたらその方がいいんだけどさ。
だって、毎回断るのも、結構気を使うから。
それなら最初から誘われないのが一番いいでしょ。
って、話が逸れたね。
当時、隣の席にSって同僚がいたんだ。
Sは話すと、凄く面白いし、仕事だってかなり出来てた。
だから、結構、周りからお昼とか飲み会とかに誘われてたよ。
でも、いつも断ってたな。
そう。今の俺みたいに。
当時の俺はコミュニケーションを取ることも仕事のうちって考えてたから、Sと何かと話すようにしてたんだ。
それで、何気なく聞いてみたことがあった。
なんで、いつも誘いを断るのかって。
そしたら、「飲めないから」とか「好き嫌いが多くて迷惑をかけちゃうから」とか言ってた。
それは誤魔化しだってことはすぐわかったけどね。
でも、それ以上は突っ込んでは聞かなかった。
詮索し過ぎると返って警戒されるからさ。
そんなあるとき、クソ上司に理不尽なタスクを振られたんだ。
どこにでもいるでしょ?
厄介な仕事を部下に押し付けて、失敗したらそいつの責任にして、上手くやったら自分の手柄にするタイプ。
典型的なクソみたいな人間だよ。
今の職場にも……まあ、それはいいか。
で、その上司に押し付けられた仕事は、どう考えても納期に間に合わせるのは無理だった。
だって、クソ上司は依頼があってから忘れて放置してたから。
一応は残業とかして頑張ったけど、やっぱり間に合わなかった。
それをクソ上司に叱責された。
わざわざ、俺の自席に来て、大声でね。
今ならパワハラって訴えられたかも。
たぶん、上司からしたら自分の責任じゃないってことを周りに示したかったんだろうね。
ホント、クソだよ。
怒ってすっきりした上司が立ち去った後、思わず俺は「殺したくなるな」って言っちゃったんだ。
そういうことは絶対口にしないって決めてたんだけどね。
怒りで思わずつぶやいたんだ。
そしたら――。
「やっぱり殺したくなるよね! 普通だよね!?」
急にSが食いついてきたんだ。
いつもはこっちが話しかけないと話さないし、話してても話を合わせる感じだったから、ちょっとびっくりした。
それがきっかけで、結構、Sと話すようになった。
そして、お昼も一緒に行くようにまでなったんだ。
そこまで仲良くなったからか、Sがなんで人の誘いを断るのかの本当の理由を聞いた。
「実は僕、殺人犯なんだ。……あ、いや、未遂ね、未遂」
そんなことを軽い口調で言い出した。
知り合いを殴って、死体を始末しようと考えてたら、実は生きていて、それで通報されて捕まったらしい。
一応、ネットで調べたからホントだと思う。
もちろん、会社にはそれを伝えていて、その上で採用されたから、会社には凄い感謝してるって言ってた。
「僕、昔から人と感性が違うっていうか、善悪の判断っていうか、そういう感覚が鈍いんだよね」
凄く苦労したと言ってたけど、顔は笑ってた。
「だから、会社でトラブルを起こしたくないんだ。それで人と接するのは極力避けてるってわけ」
俺も相槌をうちながら、引いてたよ。
実はヤバいやつだったんだなって。
「でも、よかった。僕と一緒の感性の人がいてさ」
そう言って、俺を見たんだ。
きっと「殺したくなる」って言葉を鵜呑みにしたんだろう。
単なるつぶやきだったのに、Sはそれを本気だと受け取ったんだ。
「でもさ、やっぱり殺人は難しいよ。見つからないようにするのはさ」
Sは真剣に考えてた。
どうしたらあの上司を殺せるかって。
色々、計画を相談されたよ。
もちろん、遠回しにやめるように仕向けたけど。
そんなことを本気で考えているSを、あの上司はストレス発散するために叱責してた。
Sのストレスが溜まっていくのを、隣で感じてた。
だから、なんとかそれを止めるのに必死だったよ。
だって、本当に、その場でナイフで刺しそうな勢いだったから。
それから1週間くらい経った頃だったと思う。
上司が階段から落ちて、意識不明の重体になった。
目撃者がいなかったこともあって、事故だろうってことになってたね。
喜んでる人は多かったよ。
不謹慎だけどね。
……俺は、正直、嬉しいというよりも怖いって気持ちの方が大きかった。
だってさ、Sがこう言ったんだ。
「別に殺さなくてもよかったんだよね。目の前から消えればいいだけだったんだから」
俺はすぐにその会社を辞めたよ。
それで今の会社に入ったってわけ。
これが、人と関わらないようになった理由だね。
それで、君は大丈夫?
毎日、顔を合わせてる、隣の同僚は本当に普通の人なのかな?

