〈前の話へ:誰も降りない終点〉 〈次の話へ:俺の字で「そろそろ消えて」と書かれていた〉
3ヶ月前から家で変なことが起こるようになったから、引っ越すことにした。
まさか、友達から借りた呪いのビデオが本物だとは思わなかった。
だって、一人で見るなとか言われても、こんなの一緒に見てくれる友達もいない。
だから一人で見たんだよね。
せっかく借りたのに見ないのもどうかと思ったし。
それで、見てから、なんか家の中が変な感じがするから引っ越そうというわけだ。
変な感じっていうのも、もしかしたら気のせいかもしれないけど。
ただ、引っ越すに越したことないと思ったのと、そろそろこの部屋にも飽きたからちょうどよかった。
で、引っ越すということは荷造りをしないといけないということだ。
俺はミニマリストってわけじゃないけど、あまり物欲もないから部屋の中にはあまり物がない。
だから荷造りもそこまで時間がかからなかった。
最後にクローゼットの中を整理すれば終わりというところで、中を見てたら、なんとボードゲームが出てきた。
そのボードゲームというのは、人生を辿っていく、アレ。
ルーレットで出た目の分進んで、マスに就職したり、結婚したり、子供ができたりとかが書いてあるやつだ。
なんだかすごく懐かしかった。
子供の頃はよく、友達と一緒にやったのを覚えている。
ただ、一つ気になったことがある。
――なんで俺の家に、こんなのがあるんだろうか?
もちろん、買った覚えはない。
それに実家から持ってきた記憶もない。
というか、実家からは絶縁状態で、10年近く帰っていない。
そもそも、子供の頃ならいざ知らず、今更ボードゲームをやろうとはならない。
友達を呼ばないとならないし、仮に、こういうゲームをやりたくなっても、テレビゲームでやればいい。
そういうのもたくさん出ているし。
今は桃太郎のが流行っているんだっけ?
あれはまた、このタイプのとは違うのかな?
まあ、いいか。
とにかく、なんでこんなものが家にあるのかがわからない。
とはいえ、この機会に捨てようと思った。
新しい家にわざわざ持っていくものでもない。
絶対に、やらないだろうし。
けど、捨てる前に何となく、一人でやってみることにした。
青いプラスチックの車にピンを一つ刺してスタートに置く。
そしてルーレットを回す。
出た目の分、マスを進める。
『志望の大学に入学する。お祝いで100万貰う』『賭博が見つかり、退学になる。罰金70万払う』
思わず笑ってしまった。
だって、まるで俺のことを言っているみたいだったから。
いや、笑えないんだけど。
考えてみたら、あの一件から、人生が狂った気がする。
さらにルーレットを回す。
『就職チャンス。ルーレットの出た目によって職業が確定する』
職業を決めるためのルーレットを回すと5に止まった。
『システムエンジニアになる』
せめて、ボードゲームでは違う職業に就きたかった。
なんてことを考えながらも、ルーレットを回す。
『昇格。チームリーダーに抜擢される。給料が1.5倍になる』
なんだか、ボードゲームに馬鹿にされているみたいだ。
今までは何となく当たっていたのに、こういうのだけは当たってない。
俺の人生も、こんなふうになればいいんだけど。
でも、今の会社なら、まずあり得ないだろう。
なんだか、冷めてしまった。
とはいえ、ゴールまではやろうとルーレットを回す。
ポンポンと進んでいく。
だけど、途中でおかしいことになっていた。
それは道が途切れている。
途切れているマスには『事故』としか書かれていない。
だいたい、こういうのは『スタートに戻る』とか書いてあるはずなのに、『事故』としか書いてなかった。
なんだよ、これ。
不良品じゃねーか。
俺は苛立って、ボードを叩き折り、そのままゴミ袋に入れて捨てた。
引っ越しも終わり、新しい部屋にも慣れた頃だった。
いきなり上司に呼び出される。
別になにかミスったわけでもないし、仕事をサボってたわけでもない。
逆に最近は残業して頑張ってるくらいだ。
呼び出された部屋に、ドキドキしながら入る。
すると、上司はにこりと笑って、こう言った。
「今月で、今のリーダーが辞めるんだ。で、そのポジションに、君が抜擢された。おめでとう。昇格だ」

