「心は体に影響する」
こんな話を一回は聞いたことがあるんじゃないだろうか。
一番有名なのは『病は気から』っていうのがあるだろ?
病気じゃないかって思うから、病気になるんだってこと。
……あれ? 違ったっけ?
あとは筋トレも理想の体をイメージしながらトレーニングした方が効果が上がるってやつ。
これも結構有名なんじゃないかな。
あと、もう一つ。
これはKから聞いた話。
ある死刑囚が目隠しをされた状態で、手首を少しだけ切られる。
その死刑囚は、切られたところから血が流れ、ピチャンピチャンと血が落ちる音だけが聞こえる。
その数時間後、死刑囚は出血多量で死んでしまう。
でも、実は手首を切ったのは嘘で、ただ刃物を手首に当てただけだったんだ。
で、死刑囚の手首に水を垂らすってわけ。
つまり死刑囚は思い込みで死んだってことになる。
俺はこの話を聞いて、すごく面白いと思った。
「なあ、K。これ、実際に試してみないか?」
「は? できるわけねーじゃん。もしできたとしても、殺人になるんじゃねーの?」
「違う違う。そうじゃなくってさ。Oいるじゃん。クラスの」
「あー、あの地味なオタクタイプのやつか」
「そうそう。あいつにさ、お前に強力な呪いをかけたって言うんだよ」
「……なるほど。俺たちは何もしてねーけど、Oが勝手に呪われたと勘違いして死ぬってことか」
「そういうこと」
俺の話にKもノリノリで乗っかってくる。
ただ単に呪いをかけたって言っても信じないだろうから、俺たちは色々と呪いについて勉強した。
陰陽師なんかのことも調べて、それらしいお札も作った。
あとは呪いの言葉なんかも作ってみる。
さらにハトとかカラスとか捕まえて殺して、死体も用意した。
準備が整ったところで放課後に、Oを空き教室に呼び出す。
Oは教室の異様な雰囲気に戸惑っている。
そこで俺が飛び出して、自作した呪いの言葉を言う。
Oはなんだかわからなくて、慌ててた。
すげー面白い。
そして俺はこう言ってやったんだ。
「お前に強い呪いをかけた。お前は7日後に死ぬ」
Oは叫びながら教室を出て行った。
そして俺とKは大笑いしながら、ハイタッチした。
「あいつ、すげービビってたな」
「これ、成功するんじゃね?」
「あいつ、本当に1週間後に死んだりして」
「成功したらさ、今度は2組のIにやらない?」
「いいねいいね」
次の日、Oは学校を休んだ。
さすがにその次の日は、親に言われたのか登校してきた。
そして、俺のところに来て、呪いを解いてほしいと言ってきた。
「ぜってー解かねえ」
そう言ってやるとOは絶望した表情になる。
Oはどうしてこんなことをするのか、みたいなことを言ってきた。
「別に理由なんてないよ。お前、キモいから」
俺がそう言ったらいきなりOが泣き出した。
小学生かよってくらい、ギャン泣き。
さすがに俺も引くレベル。
けど、そのせいで俺は先生に呼ばれて怒られた。
さすがにイジメってほど問題にはされなかったけど、2時間くらいは説教された。
すげームカつく。
絶対に呪いは解かねーと心に固く誓った。
Oに呪いをかけてから6日が経った。
ついに明日、Oが死ぬ。
俺はワクワクしながらその日を待った。
その日はずーっとOのことを観察した。
Oはずっと挙動不審で、涙目になっている。
それがすげー面白かった。
次の日。
普通にOが登校してきた。
どうやら死ななかったようだ。
残念、失敗だ。
けど、まあ、1週間は楽しめたから俺は満足だった。
今度は違うやつにやってみようかなと思っていた、その日の夜。
俺はいつも通り、深夜の2時くらいまで動画を見ていた。
さすがに眠くなって、ベッドで寝ようと寝転がる。
そしたら、いきなり部屋の電気がパッと消えた。
停電かと思って、スマホに手を伸ばそうとする。
でも、体が動かない。
金縛りってやつだ。
うわー、このタイミングでかよ。
眠った状態じゃなくて、起きていた状態で金縛りになるのは初めてだった。
深夜の2時を過ぎてるから、周りは静かだ。
俺は段々怖くなる。
そしたら、部屋のドアがギイと開く音がした。
最初は母さんかと思い、ラッキーと思ったが、母さんが無断で俺の部屋に入ってくるはずがない。
そもそも、部屋には鍵を閉めている。
ヒタヒタヒタ。
濡れた足音が聞こえてくる。
おかしい。
そんなわけない。
だって、俺の部屋にはカーペットが敷いてあるから、そんな音がするわけがない。
足音がドンドンと近づいてくる。
そして、ついに俺の枕元までやってきた。
ピタリと音が止んだ。
そしたら、右の手首に激痛が走った。
なんていうか……そう、噛まれたような感じだ。
痛くて叫ぼうとしたけど、金縛りで声も出せない。
身動きも取れない。
その後は血が抜けていくような感覚がする。
そう。
噛んだ奴は俺の血を吸っている。
やばいやばいやばい。
何とかしなくっちゃ。
そう思っている間に、俺は貧血のような感じで意識がなくなった。
朝。
目を覚ますと、部屋の電気はついていて、ドアも締まっている。
手首を見ても、別に何ともない。
変な夢だな。
俺はその時はそう思って気にしなかった。
――けど。
その日も同じことが起こった。
寝ようとすると、部屋の電気が消え、金縛りになる。
そしてヒタヒタと足音がして、右の手首から血を吸われる。
そんなことが4日続いた。
俺はOを呼び出して、ぶん殴った。
「お前! 俺に呪いかけただろ。仕返しに!」
そしたらOはきょとんとした顔で、なんのことって言い出した。
だから、俺はイラついて、何度も何度もOを殴って蹴った。
先生たちが集まってきて、止められ、俺は1週間の停学になった。
もちろん、停学中も変な夢を見ていた。
停学2日目、学校帰りにKが俺の家に様子を見に来た。
「お前、なんでOなんか殴ったんだよ?」
「いや、あいつさ、この前の呪いの嘘の仕返しに、俺に呪いをかけてきたんだよ」
「呪い?」
俺はKに変な夢のことを話した。
「そうじゃなくて、なんでOがお前に仕返しなんかするんだよ?」
「何言ってんだよ。お前と二人で、Oに呪いをかけたって嘘ついたじゃん」
「……は? なんのことだ?」
最初、Kがしらばっくれてると思ってたけど、本気で知らないようだった。
だから俺はKと一緒に作った呪いの札や呪いの言葉を見せようと、机の引き出しを開いた。
けど、なかった。
なにも。
何冊か、勉強のために買った本もなくなっている。
念のため、母さんに捨てたかと聞いてみたが、知らないと言われた。
どういうことだ?
俺は混乱した。
毎日変な夢は続いている。
そこで母さんに頼んで、お祓いに連れて行ってもらった。
でも、治まらなかった。
毎日毎日、同じ変な夢を見る。
もしかして、俺の思い込みで、呪いなんかかかってないんじゃないかと思い込もうとした。
けど、俺はよく貧血になるようになったし、体重も1ヶ月で10キロ以上減った。
このままじゃ死んでしまう。
でも、どうしたらいいかわからない。
誰に相談しても解決しない。
今日も夜が来る。
そして、またあの変な夢を見るんだろう。

