本編
今日、新しい部屋に引っ越してきた。
ここはつい最近、住居者が自殺して事故物件になっていたのを見つけて、ラッキーと思ってすぐに入居したいと申し込んだ。
俺はホラー系の配信者をやっているのもあって、これはネタになると思うし、なにより家賃が安い。
俺にとっては本当にいいこと尽くしだ。
これでなにか怪奇現象でも起きればさらにラッキーなんだけど、たぶん、そんなことはさすがに起こらないだろうな。
俺はホラー系の配信をやっているんだけど、正直、そういうオカルトは信じていない。
逆に信じてないからできるんだと思う。
だって、信じてたら、こうやって事故物件に住んだり、心霊スポットに真夜中に一人で行くとか無理だと思うんだよね。
とにかく、今日からさっそく配信しよう。
でも、場所が特定されるのはマズいから、そういう手がかりになるようなことはしっかり確認して映さないようにしないと。
あとは荷ほどきもしないとな。
これがちょっと面倒くさい。
でも、段ボールだらけで、配信をするのも苦情が来そうだから、とりあえず押し入れにでも、突っ込んでおくか。
そう思って、押し入れの襖を開けると、一冊のノートが置いてあった。
中を見てみると、それは日記だった。
前の住人ということは、自殺した人間の日記だろうか。
悪いとは思っても、興味とネタになるので読んでみることにした。
日記を書いた人間は結構マメらしく、毎日欠かさず書いてあった。
時事ネタなんかも書いてあって、さらに読みやすい。
俺はすっかり日記に夢中になってしまった。
気付いたら３時間も読むことに集中していた。
外はもう真っ暗だ。
でもやめられず、結局、読み進めてしまう。
日記はドンドンとネガティブな言葉が増えてきて、病んできているのがわかる。
そして、ついに最後ページの昨日の日付でこう書かれていた。
『明日、命を断とうと思います』
残念だ。
とても読み応えのある日記だったのに。
でも、これは配信のネタになりそうだ。
さっそく、配信で紹介しよう。
終わり。
■解説
最後のページの日付は『昨日』となっている。
そして、語り部は今日、引っ越してきている。
前の住居人が自殺して、次の日に住居人を募集するとは思えない。
この日記はいったい、なんなのだろうか。
そして、日記には『命を断つ』としか書いていない。
それは自殺ではなく、新たに部屋にやってきた語り部の命を断つということなのかもしれない。