本編
年末の福引で旅行券が当たった。
ラッキーはラッキーなのだが、何円分の旅行券ではなく、指定された場所に宿泊できるというものだ。
しかも、国内で観光地じゃない。
なんか、山の中にあるお城みたいなホテルなんだとか。
気が乗らないからその券を売ろうかと思ったが、彼女がいきたいと騒いだ。
なんでも、知る人ぞ知る名ホテルなのらしい。
当日、妙にテンションの高い彼女を連れて、そのホテルへと向かった。
ホテルに到着するまで3時間近くかかった。
これだけで、もうヘトヘトだ。
しかもホテルは山奥にあり、周りには本当に観光スポットもない。
せめて温泉でもあればよかったのだが、それさえもない。
一体、どうやって時間を潰せばいいんだろうか。
彼女の方は城が好きらしく、見て回るだけでも楽しいらしい。
俺は別に興味がなかったので、誘いを断って部屋でゴロゴロとしていることにする。
もちろん、他にも宿泊客がいて、大体全員で10人くらいだろうか。
それにしてもこんな客数で利益なんか出るのだろうかと心配になってくる。
まあ、俺が心配することじゃないのかもしれないが。
移動で疲れて、ウトウトしていると彼女がかなり興奮しながら部屋に戻ってきた。
なんと、宿泊客に有名な探偵がいたというのだ。
俺は聞いたことなかったが、その界隈ではかなり有名で、扱った事件は全て解決している名探偵らしい。
あとで絶対にサインをもらうんだとはしゃぐ彼女。
そのとき、大きな雷が光り、物凄い勢いで雨が降り出した。
縁起でもない。
俺は率直にそう思った。
山里離れた山奥。
外は嵐。
そして名探偵。
こんなのはもう殺人事件が起こると言っているようなものだ。
なんてことが頭をよぎったが、漫画やドラマじゃないんだからと自分に言い聞かせる。
それに探偵がいるのなら、もし殺人事件が起きてもすぐに解決してくれるだろう。
最初の被害者にさえならなければ、あとは探偵から離れなければいい。
そして、その日の夜。
不安というか嫌な予感は的中した。
そう。
殺人事件が起こったのだ。
俺は絶望した。
やっぱり、こんな場所になんか来なければよかった。
終わり。
■解説
語り部のいうように探偵と離れなければ、すぐに事件は解決するはずである。
それなのになぜ、語り部は絶望したのか。
それは最初の犠牲者が名探偵だったからである。