本編
私には中学の時から片思いの人がいる。
でも、あっちは私の名前さえも知らないだろう。
それでも私は構わない。
見ているだけで幸せだから。
そんなある日。
学校帰りにスーパーに寄って、店を出ようとしたときに雨が降り出した。
今日は雨が降ると予報で言っていたから、傘を持ってきてよかった。
傘を差そうとしたとき、ふと、視界の端に片思いの、あの人の姿が映った。
店の軒下で立っている彼。
きっと傘を持っていないんだろう。
私は勇気を振り絞って、「傘に入っていきませんか?」と声をかけた。
彼は黙って、頷いた。
傘を左手で持ち、彼と相合傘をしながら歩く。
話はしなかったが、私は幸せだった。
気付くと雨が止み、彼は傘から出て、頭を下げて行ってしまった。
もう少し長く相合傘をしたかったけど、一緒に歩けただけで充分だ。
さて、私も帰ろう。
左肩が少し濡れている。
傘が大きかったとはいっても、少し雨に当たったみたい。
早く帰って、シャワーを浴びて着替えなくっちゃ。
今日は彼と近づけた記念日になった。
凄く嬉しい。
でも、次の日に私は衝撃を受けることになった。
なんと彼が川に落ちて溺れて亡くなったのだ。
私と会った、あの後に落ちたんだろうか。
あれが彼との最後の思い出になるなんて、すごく悲しい。
終わり。
■解説
彼は最初、軒下にいたはずで濡れていないはず。
そして、語り部が傘を左手で持っていたのなら、彼は左側を歩いていたはずである。
それなのに、左肩の方が濡れるのはおかしい。
もしかすると、彼は幽霊で、それに触れたことで左肩が濡れたのかもしれない。