台風
お盆休みに、実家に帰省した。
車で3時間もかかったが、久しぶりの実家はなんだか安心する。
そんな安らぎの時間もあっという間に過ぎてしまった。
そろそろ帰らないとならない。
だが、そんなときに限って、大型の台風が直撃した。
通過するのに6時間かかるみたいだ。
そんなのは待ってられない。
急いで車に乗り込んだところで、一気に雨と風が吹き始めた。
ニュースでは走っていた車が風で横転したらしい。
やっぱり、台風が過ぎるまで待つしかないのか。
そう思ってテレビでやっていた映画を見ていたら、外は晴れていた。
ラッキー。
俺は急いで車に乗り込んだ。
終わり。
■解説
晴れたのは台風の目に入っただけである。
語り部は家に帰る途中で台風により、車が横転してしまうかもしれない。
密売
男は希少な麻薬を手に入れた。
お金を儲けるため、男はそれを売ることにする。
しかし、男がその麻薬を持っていることを知られれば、消されてしまう。
だからこそ、売ることを絶対に見つかってはいけない。
男は慎重に売る相手を探し、誰にも見つからずに取引に漕ぎつけた。
素顔で取引現場に行き、男は麻薬を全部出し、相手から金を受け取る。
このことは誰にも見つかることはなかった。
つまり、誰も男が麻薬を持っていたことはバレなかった。
男は調子に乗って、次の取引相手を探し始めた。
終わり。
■解説
男は麻薬を全て出したはずなのに、次の相手を探しているのはおかしい。
つまり、男は誰にも気づかれていないのことをいいことに、相手を殺害したのである。
停電
強い台風が接近しているとニュースを見た。
一人暮らしだと、こういうときに心細い。
今度、防災グッズを見直そうと思っていると、いきなり停電になった。
5年ほど前に買った防災リュックを思い出す。
確か、あの中に懐中電灯が入っていたはずだ。
だけど真っ暗なせいで全然見当たらない。
どこにしまったっけ。
すると、隣の部屋から光が見えた。
行ってみると、リュックの中の懐中電灯が光っていた。
まだ使えるみたい。
今度の週末はちゃんと中身を確認しないと。
終わり。
■解説
語り部は一人暮らしなので、突然、懐中電灯が光るのはおかしい。
仮にずっと付きっぱなしだったとしても電池は切れているはずである。
囚人
俺は死刑囚だ。
毎日、部屋でドアが叩かれるのを怯えて過ごす。
早く日本でも死刑が廃止になればいいのに。
死刑の恐怖で頭がおかしくなりそうだ。
死刑は一瞬で済むのだろうか?
そればかりを1日中考えている。
それももう疲れてきた。
いっそ、早く楽になりたい。
そう考えてきたらドアがノックされた。
部屋から出て、長い廊下を歩く。
部屋に入り椅子に座らされる。
目隠しされ、頭に水を含んだスポンジを乗せられる。
そして、ついに電気が流された。
俺はあっという間に意識が途切れた。
これでやっと楽になれる。
終わり。
■解説
日本は電気椅子ではなく絞首刑である。
つまり、これは語り部の夢だった。
語り部の恐怖はこれからも続いていく。
野良猫
私は大の猫好きだ。
でも、猫アレルギーだから飼うことはできない。
だからいつも遠くから野良猫を眺めている。
そんなとき、一匹の野良猫が家の庭に来た。
餌をあげるようになってから、毎日来るようになった。
仕事から帰ったら、窓を開けて餌を置く。
すると野良猫がやってきて、餌を食べる。
それを家の中から眺めるのだ。
それが一日の楽しみになっている。
今日も帰ったらすぐに餌をあげよう。
そう思って、家のドアを開けたら既に野良猫がいた。
まるで出迎えてくれたようでうれしい。
今日の餌は奮発しよう。
終わり。
■解説
ドアを開けて猫がいるということは家の中に入っていることになる。
猫アレルギーの語り部は、この後、アレルギー症状になる可能性が高い。
皇帝
子供が住む国は荒れ果てていた。
国を治めている皇帝が暴君だったからだ。
そんなあるとき、子供はある少年と出会う。
少年は皇太子で、次に皇帝になる人間だった。
少年は、自分は良い皇帝になると言う。
子供は少年と、いい国を作る約束をした。
少年はその約束を忘れないように、毎年、子供の元に手紙を送っていた。
そして15年後。
皇帝が亡くなり、次の皇帝が即位した。
しかし、国は一向に良くならない。
少年からの手紙も3年前から途切れていた。
子供は少年に会いに行った。
だが、皇帝は子供のことなんて知らないと言い、門前払いした。
結局、人は変わるものだと子供は思った。
終わり。
■解説
良い皇帝になると言った少年は暗殺されてしまった。
なので、現在の皇帝は少年ではなかった。
卒業アルバム
その女性は娘と一緒に卒業アルバムを見ていた。
女性が学生だった昭和という時代。
一人っ子だった女性は両親が亡くなって、色々と大変だったことも思い出す。
それと同時に懐かしさがこみ上げてくる。
すると、娘があることを聞いてくる。
「お父さんとお母さんはなんで結婚したの?」
「学生の頃、ずーっと同じ学校だったの。それで仲良くなったんだよ」
「へー」
そして、最後までアルバムを見た娘がこう言った。
「あれ? お母さん、いなかったよ?」
「恥ずかしがり屋だから」
「へー」
娘は女性の言葉に頷いて、アルバムを閉じた。
終わり。
■解説
卒業アルバムであれば個人写真が載っているはずで、必ず女性の写真が載っているはず。
女性は一体、誰のアルバムを見ていたのだろうか?
眼差し
俺は国内では誰でも知っているトップアイドルだ。
どこに行っても、周りから羨望の眼差しを向けられる。
最初はそれが嬉しく感じていたが、今ではうんざりしている。
最近ではストーカーも出てきた。
いつの日からか、俺は人目につかないところを通るようになった。
帽子とマスクをして、目立たない服にしている。
それでもファンは気付く。
今日も深夜で路地裏にも関わらず、どこからか視線を感じる。
振り切ろうと走ったら、目の前から人が出てきてぶつかった。
その女は俺の方をジッと見ている。
サインをねだれるかと思ったら、悲鳴をあげて逃げて行った。
こういう反応は初めてだ。
そう思っていると、後ろから何か衝撃が走った。
終わり。
■解説
女はアイドルではなく、その後ろにいるストーカーを見て逃げて行った。
駆け落ち
その少女は、ある男を愛していた。
しかし、少女と相手の身分は全く違うため、どう見ても釣り合わなかった。
相手の親にはもちろん、周りに相談しても、全員に反対される。
それでも少女は、どうしてもその相手と結婚したかった。
そこで少女は相手に駆け落ちして、結婚してほしいと懇願する。
だが、それは無理だと断られてしまった。
それを聞いた少女は絶望した。
そして女を殺した。
結婚できることを信じて。
終わり。
■解説
男に絶望したはずなのに、女を殺害するのはおかしい。
そして、男は結婚してほしいという少女の言葉に「無理だ」と返している。
つまり、男は既婚者で、少女が殺害したのは男と結婚している女である。
特ダネ
ある記者は大物政治家に関して、国がひっくり返るほどの重要なネタを掴んだ。
だが、裏が取れていなかった。
そこで記者は探偵を雇い、調査してもらうことにした。
絶対に外に漏れないように、その探偵のみ、調査に当たってほしいと依頼する。
探偵は了承し、調査を開始した。
記者は祈る思いで調査結果を待つ。
そして1ヶ月後。
記者は探偵に呼び出される。
「私は先生の助手をしている者です」
「それで調査の結果は?」
「残念ながら、事実無根のネタでした」
「そうですか」
記者は調査報告を聞いて、落胆した。
終わり。
■解説
探偵一人に依頼したのに、助手が報告に来ているのはおかしい。
つまり、探偵は調べていることが見つかり、消されてしまった。
依頼者である記者も消される可能性が高い。