工作
ールを使って、一緒に模型を作るんだ。
ななみちゃんには格好いいところを見せたいから、お母さんにお願いして、すごい切れるハサミを買ってもらった。
このハサミのおかげで段ボールがスイスイ切れる。
ななみちゃんもすごいって言ってくれた。
よし、このままドンドン切っていくぞ。
って思ったのに、急に固くなった。
あれ? 全然切れないぞ?
僕は両手で思い切り、ハサミを握った。
そしたら、バツンってものすごい音がして切れた。
終わり。
■解説
よく切れるはずのハサミで、段ボールがそこまで切れないのはおかしい。
つまり、切ったのは、ななみちゃんの指だった。
心霊スポットで集合写真
高校最後の夏休み。
思い出作りとして、クラスの30人全員で心霊スポットに行くことにした。
もちろん、先生には内緒でだ。
正直、海とか、どこかに遊びに行くとかしたかったけど、そんなお金も時間もない。
よりによって肝試しって感じだけど、これはこれで思い出に残りそうだ。
クラス全員が集まった。
肝試しを開始する前に、クラスのみんなで記念撮影。
元々来てない人がいて、いなくなったと勘違いしたら困るし。
俺が撮影して、人数を数える。
うん。きっちり30人いる。
さて、肝試しを始めよう。
終わり。
■解説
クラスは全員で30人。
語り部が撮影したのなら、29人しか写ってないはず。
つまり、1人多いということになる。
許してほしい
6年前、私はある女性を殺害してしまった。
自首をして、服役して、出所した。
それで罪は償ったはずだ。
でも、その女性の婚約者だった男が、私のことを見つけて、ずっと嫌がらせをしてくる。
私は何度も、男に謝罪した。
この1年で300回以上。
もう許してほしい。
嫌がらせを止めてほしい。
何度も何度も男に謝って、嫌がらせを止めてほしいと懇願した。
でもダメだった。
押してダメなら引いてみる。
私は男に最後のお願いをしに行った。
その後、男からの嫌がらせは永遠に止まった。
終わり。
解説
語り部は嫌がらせをしていた男を殺害した。
そのため、男からの嫌がらせは止まったのである。
娘
父親というものは娘に嫌われるものだ。
会社の同僚も同じらしい。
娘に酷いことを言われたことを愚痴っている。
なぜ娘に嫌われるかというと、女性というのは自分とは違う遺伝子を求めるものらしい。
娘は自分の遺伝子が入っているのだから、その理論でいうと嫌われるのは当然だ。
でもうちは違う。
娘は高校生になるのに、一度も嫌われたことはない。
なんでだろう?
嬉しいことだけど、なんか不思議だ。
終わり。
■解説
嫌われていないということは、語り部と娘は同じ遺伝子ではない可能性がある。
つまり、娘は本当の語り部の子供ではない。
もしかすると、妻が不倫してできた子供かもしれない。
子守唄
お母さんは私が3歳のころに生まれた妹に、夜9時になると、いつも子守唄を歌っている。
私はそろそろやめたら、と言うが一向に聞く耳を持ってくれない。
その子守唄は私も、お母さんによく歌ってもらっていたし、好きだった。
私も子供が生まれたら歌ってあげようと思っている。
でも、まあ、彼氏というか結婚するのが先なんだけど。
会社の同僚にはいい人いないし、結婚相談所にでも行ってみようかな。
こんなことなら、大学で頑張って彼氏を作っておくべきだった。
終わり。
■解説
語り部は会社に勤めているということは20歳以上である。
そして語り部よりも3歳下の妹は17歳以上のはず。
その妹に母親が子守唄を歌うのはおかしい。
つまり、妹は子供の頃に亡くなっていて、母親は未だにその子を想い、歌を歌っている。
手帳
私はスケジュール管理を未だに手帳でやっている。
今日も手帳に沿って30分刻みのスケジュールをこなしていく。
一日、何事もなく終了。
と思っていたが、最後に交番に行くと書いてある。
こんなスケジュール書いた覚えはないし、交番は朝に行った。
おかしいなと思っていたら、ハッと気づく。
これは俺の手帳じゃない。
今朝、同じ柄の手帳を拾って、交番に持って行ったとき、間違えて自分の方の手帳を渡してしまったようだ。
仕方ない。
帰りに交番に寄っていくとするか。
終わり。
■解説
語り部の手帳ではないのに、書いてあるスケジュール通りに行動したのに、何事もないのはおかしい。
一体、この手帳はなんなのだろうか。
とても不思議である。
EXIT
10階建てのビルの屋上で開催されているイベントに参加していた。
お店で出されている料理も、ビールも本当に美味しい。
外で食べたり飲んだりするのは最高だ。
お姉ちゃんが生きてたら、絶対一緒に参加してたと思う。
今度は誰か、友達と一緒に来よう。
急に寂しくなり、帰ろうかと思っていたら、お店の一軒から火災が発生した。
みんなが入り口の方へ逃げていく。
私も、と思ったが「そっちじゃないよ」という声がした。
振り返ると、お姉ちゃんがEXITと書いてあるドアを指さしている。
私は慌ててEXITの看板の方へ向かった。
終わり。
■解説
語り部の姉は死んでいるはずである。
そして、語り部はみんなとは逆方向に進んでいる。
つまり、出口とは「この世からの出口」であり、姉が語り部をあの世に引きずり込もうとしているのかもしれない。
スリッパ
私はちょっと掃除が苦手だ。
だから家の中ではスリッパは欠かせない。
裸足で歩こうものなら、足の裏が埃だらけになってしまう。
だから、私にとってスリッパは靴下よりも重要なのだ。
でも、ある日。
仕事から帰ってきて、靴からスリッパに履き替えると、中がぐっしょりと濡れていた。
会社に行くときに、水でもこぼしたっけな?
私はスリッパと、濡れた靴下を脱いで裸足でリビングに向かう。
足の裏を見ると、埃で黒くなってた。
やっぱりスリッパは欠かせないなぁ。
終わり。
■解説
仕事に向かう前に濡れたとしても、帰ってくる頃には乾いているはずである。
それに、スリッパが中まで濡れるほどであれば床も濡れていて、足の裏に埃はつかないはず。
一体、なぜスリッパは濡れていたのだろうか。
助けて
暑い夏の日。
俺はひとりで廃病院に肝試しに来ていた。
俺以外には誰もいない。
さっそく建物に入ろうとしたときだった。
急に中から女の声が聞こえる。
助けて
見上げると、3階の窓に人影があるのが見えた。
部屋に着くと、腹にナイフが刺さった男が蹲っている。
駆け寄ると、その人は気を失っていた。
刺した人間がまだいるのではないかと周りを見渡す。
すると、窓が割れているのに気づく。
犯人は外に逃げたのだろう。
俺はすぐに救急車を呼んだ。
終わり。
■解説
助けてという声は女で、3階にいたはずである。
窓から外に出たとは考えづらい。
つまり、男は女を突き落とした際に、女にナイフで刺されたのである。
永遠の愛を誓う
10年付き合った彼と結婚した。
とても真面目な彼のプロポーズの言葉は「永遠に君だけを愛す」というものだった。
そして、結婚してから5年。
彼はずっと私だけを愛し続けてくれた。
そんなある日。
彼が高校の頃の同窓会に参加するために出かけて行った。
次の日。
彼は自分で自分の命を絶った。
終わり。
■解説
彼は同窓会で、違う人を好きになりそうになった。
語り部だけを愛すという誓いを守るため、その相手を愛す前に自分で命を絶ったのである。