本編
俺は別に高い志があったわけじゃない。
何気なくSNSで書いたことが大バズりして、一躍、時の人になってしまった。
それから俺は周りから、なんだかすごい人だと思われるようになった。
お調子者の俺はそれに応えてしまった。
あれよあれよという間に、知事に立候補することになり、テレビでも取り上げられるようになった。
そうなってくると、アンチが湧いてくるようになる。
過去の俺の発言が掘り起こされ、「やっぱりあいつはやばい奴だ」というレッテルを貼られてしまう。
そうなってからは、落ちるのは早かった。
もちろん、俺は落選し、結果が出てからも俺は世間から叩かれ続けた。
もう疲れた。
とにかく、俺は一人になりたかった。
山奥にでも逃げ込めば、少しはメンタルが回復するかと思い、なにげなく山に登った。
登っている最中に、休憩所のような小屋を見つける。
ちょうど疲れてきたと思っていたところだ。
休憩させてもらおう。
俺はふらふらと小屋の方へ向かい、ドアを開けようとする。
だが、木で出来ている小屋は、ドアが膨張しているせいか、なかなか開かない。
なんとか体当たりをして、無理やり開けたが、そのせいでドアが壊れてしまった。
まあ、誰も使っていなさそうな小屋だから問題はないだろう。
中に入ってみると、荒れ放題だった。
埃が積もっている。
それを踏んだ形跡もない。
これはもう2年以上は誰も入っていなかったのだろう。
こんなところじゃ、休憩するどころか、かえって気が滅入ってしまう。
さっさと出よう。
そう思ったが、トイレに行きたくなったので、トイレだけ使ってから出ることにした。
トイレもやっぱり、酷い状態だった。
一瞬、外のほうがマシかと思ったが、小の方だったので、我慢することにした。
これで、大の方で便座に座らなければならないなら、外でしたと思う。
用を足していると、壁に物凄い量の落書きがあることに気づいた。
下品な言葉や、誰が誰のことを好きなんていうくだらないこと、電話番号やメールアドレスなんかも書いてある。
その中に、俺の名前と、「知事落選おめでとう。お前なんかが知事になれるわけないだろ」という落書きを見つけた。
はあ。
こんなところにまで、俺の悪口が書かれている。
ネットの世界から出てもこれだ。
もう、逃げ場なんかないんだろうか。
俺はトイレから出て、山を下り始めた。
今度は海にでも行ってみるか。
終わり。
■解説
この小屋には2年以上、人が入った形跡はないはずである。
ではなぜ、語り部が知事に落選したことが書いてあったのか。
この落書きを書いた人間は未来人なのかもしれない。