本編
今日から、待ちに待った新居へ入居する。
旦那はすごく渋ってたけど、なんとか説得して25年ローンで家を購入したのだ。
旦那の方は乗り気じゃなかったのと、あまり興味がないこともあり、家の間取りなんかは全部、私の好みで仕上げている。
やっぱり自分の家というのは感慨深い。
今日からここが私の家となることに興奮する。
1週間はかかると思っていた荷解きも2日で終わり、足りないものや新居へ移ったことをきっかけに家電も新調した。
新居だと掃除にも気合が入るが、そもそも汚れていないのですぐに終わってしまう。
そのせいか、なんだか手持ち無沙汰になってしまった。
必要なものも買い揃えてしまったし、出かける用事もない。
なので、ぼーっとテレビを見ていたときだった。
不意に後ろの方でパタパタという足音が聞こえた。
慌てて振り向いてみるが、もちろん誰もいない。
うちは子供もいないし、旦那は仕事に行っている。
実家の親も離れたところに住んでいるし、友達にはまだ新居に移ったことを教えていない。
だから、家の中に、私以外にいるはずがないのだ。
最初は気のせいかと思ったけれど、何回も足音が聞こえるし、子供の笑い声も聞こえ始めた。
私は血の気が引いた。
新居なので事故物件なわけがない。
それなのに、幽霊なんて出るだろうか?
もしかしたら、近所の子供がいたずらで入り込んだのかもしれないと思い、戸締りはしっかりと確認していた。
それなのに、子供の気配がする。
このことを旦那に話しても、取り合ってくれない。
私は急に、この新居が怖くなった。
気を紛らわせるため、テレビを大音量で流す。
それなのに、足音だけはしっかりと聞こえてくる。
しかも、段々と近づいてきているのだ。
そして、ついにすぐ後ろで足音と笑い声が聞こえた。
私は我慢ができなくなり、咄嗟にトイレに逃げ込むことにした。
ドアを引いて、中へと入り、しっかりと鍵を閉める。
すると、今度はトイレのドアがノックされる。
私は思わず悲鳴を上げた。
そしたら、ノックがドンドンと強くなっていく。
私がやめてと叫ぶと、その音はぴたりと止んだ。
いなくなったかと思い、ほっとした瞬間だった。
ギギギとトイレのドアが開き始める。
ドアの鍵を閉めたはずなのに。
そして、その隙間から、男の子がじっとのぞき込んでいた。
私はまた悲鳴を上げて、ドアを押して閉めた。
「ここは私の家よ。出て行って!」
私がそう叫ぶと、ドアの前にいた気配が、足音とともに遠ざかっていった。
今度こそ、いなくなったと直感し、私は溜息を吐いた。
明日、お祓いしにお寺にいってこよう。
終わり。
■解説
語り部はトイレのドアを「押して閉めて」いる。
ということは、ドアは「内開き」ということになる。
だが、多くのトイレは「外開き」である。
そして、語り部もトイレに入るときはドアを引いていることから外開きのはずである。
つまり、トイレのドアが幽霊によって、あり得ない方向に開いていることになる。