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蜃気楼

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本編

男は1人、砂漠を彷徨っていた。
本来通るはずのルートから随分と離れたところを歩いている。
 
男はかれこれ、5日は迷いながら進んでいる状態だ。
途中で珍しい生物を見て、それを追いかけたのが失敗だった。
 
この5日間は人どころか動物さえも見ていない。
食料や水は2日前に尽きてしまった。
 
もう生きては帰れないだろう。
 
そう思い、覚悟を決めた時だった。
ふと、遠くのほうにぼんやりと建物らしきものが見えた。
 
助かるかもしれない。
 
今までやみくもに歩いていた男にとって、向かう先がわかるだけで救いだった。
 
男は気力を振り絞り、建物がある方向へ歩き出そうとする。
だが、そのとき、ふいに背中をポンと叩かれた。
 
振り向くと、そこには青年が立っていた。
 
「あれは蜃気楼ですよ」
 
青年は残念そうに首を横に振る。
 
「この辺りは迷った人しか通りませんからね。近くに建物なんてありませんよ。あそこに向かってもただ体力を消耗するだけです」
 
青年はそう忠告して、持っていた水を差し出してくれた。
 
男は建物が蜃気楼だったことに気落ちしたが、人と会えたことと、2日ぶりの水を飲んでホッと安堵の息を吐いた。
 
終わり。

■解説

男がいた場所は「迷った人しか通らない」場所である。
つまり、青年も迷った人間ということになる。
そして、この辺りに建物は存在しない。
語り部は生命の危機は全く去ってはいない状態なのである。

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