本編
最近、町で奇妙な事件が起きている。
夜な夜な、通行人を無差別で襲う者がいるというものだ。
襲われた者は皆、殺害されていて、しかもその死体には噛み千切られた箇所がある。
そこで、狂人の仕業だと最初は考えられていた。
犠牲者が10人を超す頃、ようやく警察が本腰をあげて捜査に乗り出した。
その町はそこまで大きくなく、人口も限られてはいるので、相当苦労はしたが住人のアリバイを調べ上げた。
すると全ての事件の際にアリバイがない住人はいなかった。
警察は複数の犯人が存在することを疑ったが、死体に残った歯型は全て同一のものだった。
さらに、アリバイを調べると同時に歯型の検証も行ったが、ヒットする住人も見当たらない。
もしかすると、町の住人ではない人間がやってきて、事件を起こしているのではないかと考えた。
しかし、どんなに調べてみても、事件が起こったときに住人以外の人間が町に入ってきている形跡を見つけられない。
捜査に行き詰まる警察。
そんなとき、ある目撃情報が入って来る。
それは犯人の顔を見たというものだった。
その目撃者からの聞き取りにより、モンタージュを作成することに成功する。
そのモンタージュを頼りに、聞き込みを始めると、みんなが口を揃えてAだと言う。
Aは町の住人だった。
それならば、なぜ、アリバイや歯型を調べたときに、Aが犯人としてあげられなかったのか。
それは、Aが既に「死亡」していたからだった。
そのことで、住人はAがゾンビになって蘇り、人々を襲っているという噂が立ち始める。
Aはカルトにハマっている上に、何度か奇行をして捕まっていた。
なので、Aがゾンビになって蘇ってもおかしくない、という話だった。
警察はそんな非現実的なことを信じるわけにはいかなかったが、念のため、Aのことを調べてみた。
すると、Aの死因はショッピングモールでの火災に巻き込まれての焼死となっていた。
終わり。
■解説
警察は目撃者の聞き取りによってモンタージュを作成している。
つまり、目撃者は顔がはっきりと判明できたということになる。
しかし、Aは焼死しているはずであり、その場合、顔にも火傷を負っているはずである。
もし、ゾンビになって蘇っているのなら、火傷だらけの身体のはず。
もしかすると、Aは火災に巻き込まれて焼死してなく、生きて事件を起こしているのかもしれない。