退屈な大富豪
その男は大富豪の家に生まれ、幼少の頃から何不自由なく暮らしていた。
興味のあるものは全て買ってもらい、レジャー施設は貸し切りにして、心行くまで遊んだ。
大人になる頃には、男はこの世のすべての遊びをやりつくしてしまった。
そして、男は退屈な日々を過ごすことになる。
どんな遊びも男にとってはつまらなく感じた。
一時はギャンブルにもハマったが、すぐに飽きてします。
さらには奴隷などを金の力を使って買い集め、その奴隷たちを狩るなんてこともした。
だが、やはり男を満足させられることはなかった。
男は退屈に悩まされる。
退屈で気が狂いそうだった。
そこで、男は「退屈を解消できたものに多大な報酬を出す」と宣言した。
様々な人間がゲームや乗り物などを持って、男の元にやってくる。
しかし、まったく男の退屈を解消することができなかった。
もうダメだと諦めかけたときだった。
男の元に一人の奇術師がやってくる。
奇術師はロープにぶら下がるという方法を男に提示した。
男は奇術師の言う通りにロープにぶら下がった。
男は二度と退屈することはなかった。
終わり。
解説
奇術師が提示したのは首にロープを括りつけてぶら下がるという方法。
つまり、男は首を吊った。
男は死んでしまったので、もう二度と退屈することはない。
占い師の助言
最近、嫌がらせをされている。
ずっと監視されている気がするし、夜中に窓を叩かれたりもする。
イタズラ電話も多いし、嘘の噂を流されたりもしている。
もちろん、警察に相談したけど、見回りを強化してくれるだけだ。
さらに、警察が見回りしてくれているときに限って、嫌がらせがピタリと止まる。
だから、警察に相談に行っても「またか」という顔にされるようになった。
寝不足になって頭がボーっとする。
そんな状態で電車を待っていると、ドンと押されてしまった。
ホームから線路に落ち、大騒ぎになったが、誰かがすぐに非常停止ボタンを押してくれたことで俺は事なきを得た。
さらには道を歩いていたら、上から鉄の箱が落ちてきたりもした。
もう少しで当たるところだった。
警察の人の話だと、当たっていたら即死だったと言われた。
こんな状態だと、怖くて外に出られない。
でも、出ないわけにはいかない。
もうノイローゼになりそうだった。
そんな俺を見かねてか、友人がすごく当たる占い師を紹介してくれた。
その占い師は占った相手の死期が見えるのだという。
その占い師に見てもらって、事故を回避したとか、病院で検査をしてもらったら早期の癌を発見できたとか、その占い師のおかげで多くの人が命を救われたらしい。
そして、俺はその占い師に見てもらった。
すると、占い師にこう言われた。
「あなたは一ヶ月以内に刺殺されます。絶対に家で一人になってはいけません」
俺はその日から、知り合いに頼み込んで、家に泊まってもらうことにした。
絶対に家では一人にならないようにした。
そして、占い師に言われた一ヶ月が経とうとしたときだった。
その頃には嫌がらせも収まってきていて、俺の精神も安定してきた。
そんなときだった。
町で高校のときのクラスメイトに会った。
そいつには、正直あまり会いたくなかった。
たぶん、そいつには嫌われていると思っていたからだ。
というのも、当時、そいつから恋愛の相談をされて、そいつが好きだった女のことをリサーチする間に、いつの間にか、その女と付き合うことになってしまったからだ。
結局、その女とは1年ももたなかったのだが。
そこからは俺は気まずさがあってか、そのクラスメイトとはあまり話さなくなっていた。
卒業して5年が経っている。
そのクラスメイトは、その頃のことは全然気にしていなかった。
どうやら、俺だけが気にし過ぎてただけだったようだ。
そもそも、恋愛の相談に乗るくらい仲が良かったのだ。
俺たちは高校の頃の話で盛り上がった。
もっと話したいと思い、家で飲まないかと誘った。
酒とつまみをたっぷりと買って、家で飲み始める。
今日は二人で朝まで飲み明かそう。
終わり。
解説
占い師が言っていたのは「刺殺されるので、一人にならないこと」である。
つまり、「殺される」ときは「犯人」と「語り部」の「二人」になることを避けろと言っているのである。
もし、語り部の言う元「クラスメイト」が「犯人」だった場合、語り部は「家で一人」になってしまう。
元クラスメイトは、好きな人を取られたことをずっと恨んでいたのかもしれない。
自殺未遂の男
男は世の中に絶望していた。
色々な人間に騙され、裏切られ、罵られて生きてきた。
男はこの世に希望を見出せず、自殺を試みる。
だが、そのたびに失敗し、助けられてしまう。
それでも何度も何度も自殺を試みる男。
あまりに失敗するので、男は誰にも見つからない場所で自殺しようと考える。
男が選んだのは山の近くに建っている、廃墟になった病院だった。
その病院は、以前は心霊スポットで有名だったが、今では誰も近寄らないのだという。
男はちょうどいいと思い、今度こそ、そこで自殺を遂げると希望を持って病院に行った。
だが、男は自殺をすることなく戻ってくる。
そして、男は二度と自殺をしようとはしなくなった。
男は前以上に絶望することになってしまったのだった。
終わり。
解説
男が自殺しようとして向かった場所は『心霊スポット』だった。
ではなぜ、そこに人が近寄らなくなったのか。
それは、まったく幽霊が出ないか、もしくは本物の幽霊が出るからと考えられる。
男はそこに行った後、二度と自殺をすることはなくなったが、絶望することになった。
それはなぜか。
つまり、男は廃墟の病院で幽霊に会い、『死んでも苦しむことになる』と知ったことで、死ぬことは意味がないと理解したからである。
なので、男は前以上に絶望することになったのであった。
大胆な強盗
いつもの何気ない平日の朝のことだ。
会社に向かうため、家を出て、ちょうどアパートの入口のところで警察官に出くわした。
なにか見回りをしているようだったので、「なにかあったんですか?」と聞いてみた。
すると、最近、この辺で見知らぬ男がウロウロしているという通報があったのだという。
近頃は空き巣や強盗などが頻発しているので、見回りを強化しているらしい。
妻は主婦で日中でも家にいるので、怪しい人物と出くわしたらと思うと怖い。
うちは戸締りはしっかりとしているが、そんなものは窓を割られて侵入でもされたら終わりだ。
俺は警察官に「よろしくお願いします」と挨拶して、会社へ向かった。
その日は商談も早くまとまり、会社に帰社予定の時間まで2時間以上あったので、家で休もうと思い、家に戻った。
鍵を開けて家の中に入ると、玄関には見知らぬ靴があった。
誰か、お客さんでも来てるのだろうか。
「お客さんか?」
俺は妻に声をかけながらリビングへと向かった。
すると、悲鳴が聞こえた。
それは妻のものだった。
俺は慌ててリビングに走った。
ドアを開けると、妻は床にペタンと座って、震えていた。
「どうしたんだ?」
震えている妻に問いかけると、いきなり家に強盗が入ってきたのだという。
金目の物を出せと脅されたところに、俺が帰ってきて、強盗は逃げて行ったらしい。
見るとリビングの窓が開いている。
そこから逃げたんだろう。
幸い、取られたものはなく、窓も割られたりもしていなかった。
妻も無事だったからよかったものの、俺が偶然、家に帰ってなかったら最悪なこともあり得た。
それにしても白昼堂々と犯行を行うなんて、大胆な強盗だ。
警察の人には悪いが、もっと巡回を強化してもらおう。
終わり。
■解説
強盗がいきなり入って来たというのなら、一体、どこから入ってきたのだろうか。
語り部が家に帰ったとき、家のドアには鍵がかかっていた上に、靴が置いてあった。
強盗がわざわざ靴を脱いで入って来るのには違和感がある。
妻が招いたと考える方が自然である。
つまり、妻は語り部が仕事している間に不倫をしていた。
新品のような包丁
その女は料理が好きだった。
料理の食材はもちろん、調理器具にもこだわりを持っている。
そんなあるとき、女の夫が包丁をプレゼントした。
その包丁は職人が手で作った特注品で、女は前から欲しいと思っていた包丁だった。
女は感激し、夫からもらった包丁をとても大切に使っていた。
使わない日も手入れを欠かせない。
それくらい、嬉しかった。
夫の方も妻の喜びようを見て、プレゼントをしてよかったと思う。
その包丁をプレゼントしてから、夫は妻の料理の腕も上がった気がする。
前の料理も美味しかったが、最近の料理は舌を巻くほどだった。
そのことを話すと女は恥ずかしそうに「包丁に見合った料理を出さないとと思って」と答えた。
夫は「あまり凝り過ぎて、大変にならないようにね」と言う。
最近は料理にかける時間が結構長くなってきていたのだ。
そんなある日、女の妹が家に遊びに来た。
妹も、女ほどではないが料理が好きだった。
なので、今晩は一緒に料理を作ろうということになった。
そして、料理をしていると妹が、思い出したように言う。
「そういえば、旦那さんから包丁プレゼントしてもらったんだっけ?」
「うん。これだよ」
「うわー。すごい良い包丁だね」
「でしょ?」
「ちょっと使ってみていい?」
「うん。いいよ」
「わっ! 凄い切れる!」
「でしょ?」
「でも、プレゼントされたのって、半年以上前でしょ? 新品みたいだね」
「うん。実は、もったいなくて料理に使ってないんだ……」
「ええー。ちゃんと使いなよ。せっかくプレゼントしてもらったんだから。眺めて、手入れしてるだけじゃ、逆にもったいないって」
「そうだよね。じゃあ、今度からはちゃんと使うよ」
「うん。それがいいと思うよ」
その日は姉妹で協力して料理を作ったので、美味しくて豪勢な夕食が完成したのだった。
終わり
■解説
女は包丁を『とても大切に使っていた』はずである。
そして、注目すべきなのは「料理には使っていない」と言っていることである。
ということは料理以外のことに『使って』いることになる。
そして、女の夫は、包丁をプレゼントしてから『料理が格段に美味しくなった』と言っている。
もしかすると、女はこの包丁を「よからぬもの」を切ることに使っているのかもしれない。
お年玉
僕の家では、お年玉はもらったぶんだけ使っていいことになっている。
だから、いつもすぐに全部使ってしまう。
そんなに欲しくないものでもすぐに買ってしまうのだ。
そして、絶対に後で後悔する。
もっと欲しいものが出てくるからだ。
だから今年は絶対に使わないようにしようと思って、ポケットに大切にしまっている。
ここで我慢して、あとからもっと欲しいものが出てきたら買うんだ。
僕は本当に頑張って我慢した。
我慢して我慢して我慢した。
そして、冬休みが終わって、2月になったとき、楽しみにしていたゲームが発売された。
僕はさっそくゲームを買おうと思って、ポケットに手を突っ込んだ。
でも僕は知らなかったんだ。
ポケットにずっとお金を入れてたら、小さくなってしまうなんて。
終わり。
■解説
語り部はお年玉をずっとズボンのポケットに大切に入れていた。
だが、1ヶ月以上、同じズボンをはき続けるとは考えにくい。
ということは、少なくても1回は洗濯されていることになる。
お金を入れたまま。
また、「小さくなった」というのは、お札が小銭になった(母親あたりに使われた)ということではなく、お札の場合は特殊な紙で出来ているため、ボロボロにはならない。
だが、小さくなってしまう。
そのまま使おうとしても、偽札だと思われてしまうため、使うことはできない。
てるてる坊主
6月は雨が多い。
ホントに雨は大嫌いだ。
外で遊べなくなるし、なんか体がベタベタするし、傘も嫌い。
だから早く、7月になってほしい。
でも6月でも晴れになって欲しい日はある。
明日はお父さんが珍しく遊園地に連れてってくれるって約束してくれた。
だから、絶対に明日は晴れになって欲しい。
とにかく、僕はクラスのみんなに、晴れになる方法を知らないかを聞いてまわった。
でも、みんな、そんなのは知らないって言われた。
どうしよう。
そう思って帰っていると、ふと、ある家が見えた。
その家は確か、お金持ちの3人家族が住んでるとか言っていた。
いいなぁ。
こんなにおっきな家に住めるなんて、すごいなぁ。
そう思って見ていると、僕は家の中にすごいものを見つけた。
おっきなてるてる坊主。
大きいのが2つと小さいのが1つ。
僕はそれを見て閃いた。
そっか。
てるてる坊主があった。
僕は帰ってさっそくたくさんのてるてる坊主を作った。
そのおかげで、次の日はちゃんと晴れた。
お父さんは約束通りに僕を遊園地に連れて行ってくれた。
すっごく楽しかった。
月曜日の学校の帰り道。
またそのお金持ちの家の前を通った。
てるてる坊主あるかな?
てるてる坊主があった部屋を見てみると、そこにはもうてるてる坊主はなかった。
もうしまっちゃったのか、と思ってたら、窓からおばあちゃんがこっちを見て、笑って手を振ってくれた。
僕はおばあちゃんに手を振ってから、家に帰った。
終わり。
■解説
語り部が見た大きなてるてる坊主は、てるてる坊主ではなく首つり自殺した、家族。
では、最後に見たおばあさんは、一体、何者だったのか。
お留守番
僕のお父さんとお母さんはいつも喧嘩している。
夜に起きると、いつもリビングで離婚だとかなんとか言い争いをしてる。
僕の名前を言ってるので、僕のせいなのかもしれない。
でも、お母さんもお父さんも、僕を怒ったりしない。
僕の何がダメなんだろう?
僕が頑張ればお父さんとお母さんは仲良くしてくれるの?
だから僕は勉強も運動も頑張ってる。
先生だって褒めてくれた。
僕が頑張ったから、お父さんとお母さんは仲良くしてくれるみたい。
今日はお父さんとお母さんが一緒にお出かけするんだって。
僕は、今日はお留守番しててほしいって言われたんだ。
ちょっと、寂しいけど、お父さんとお母さんが仲良くしてくれるなら我慢できるよ。
お父さんとお母さんは何度も、ちゃんとお留守番しててと言ってきた。
大丈夫。
僕だって、もう小学生になったんだ。
一人でお留守番だってできる。
お父さんとお母さんがお出かけした後、裕くんから電話が来た。
新しいゲームを買ってもらったから遊びに来ないかって。
最初は留守番しないといけないって言われたから、断ったんだけど、1時間だけで来ないかって言われて、行くことにした。
1時間くらいなら大丈夫だよね?
僕は裕くんの家に行って、1時間くらい遊んで家に帰ろうとした。
そしたら、家のまわりにたくさんの人が集まっていた。
家が火で燃えてた。
消防車がたくさん来て、水をかけてる。
そして、お母さんの声が聞こえてきた。
「あの中に子供がいるんです! 助けてください!」
お母さんが僕の心配をしてくれてる。
それがすっごく嬉しかった。
僕は大丈夫だよ。
お母さんに抱き着いた。
そしたらお母さんが僕を見て叫んだ。
「どうしてここにいるの!」
終わり。
■解説
語り部の両親は、いつも喧嘩している。
そして、語り部の名前を言っているということは、語り部のことが原因かと思われるが、語り部はいい子で、勉強も運動も頑張っている。
ということは、両親は離婚するのにどっちが語り部を引き取るかを喧嘩している可能性が高い。
なので、火事に巻き込まれたのを装って語り部を殺そうと画策していたのかもしれない。
郵便物のお土産
専業主婦で、ずっと家に閉じこもっていた妻に最近趣味ができたらしい。
その趣味というのは写真を撮ることのようで、色々な場所に出かけて行っては、写真を撮っている。
時々、帰って来るのが遅いが、今まで無趣味で家に閉じこもっていることを考えれば、このくらいは許容だろう。
今は妻の趣味を邪魔したくない。
俺は俺で一人晩酌をしていよう。
さらに妻に趣味が出来たことで、妻が活き活きとして若返った感じがする。
これも嬉しい限りだ。
妻を見て、ドキドキするなんて、10年ぶりくらいだろうか。
そんなある日の休日。
妻は海を撮りに行くと言って、出かけて行った。
俺は前の日の酒の二日酔いで、ずっと家で寝ていた。
昼過ぎに起きると、妻はテーブルに俺へのお昼ご飯を作って置いておいてくれていた。
ありがたいと思い、早速食べることにする。
すると妻から電話がかかって来る。
「今、お土産を送ったから、受け取って欲しいの」
とのことだ。
今日は一日家にいるつもりだったから、俺は快く了承した。
家でゴロゴロとしていると、チャイムが鳴る。
出てみると、妻が言っていたように郵便物だった。
あて先は妻へで、送り元は隣の県で、見たことのない名前だった。
お土産のはずなのに、おかしいなと思いながらとりあえず受け取った。
中には時計が入っているらしい。
変なお土産だなと思いつつ、俺はリビングのテーブルの上に置き、テレビを見ながら再びゴロゴロとしていた。
そして、18時になったときだった。
カチという音がしたと思うと、俺は眩しい光に包まれた。
終わり。
■解説
語り部の言うようにお土産を自分の家に送る場合には、送り主を自分にするはずである。
(嘘をつく意味はないため)
また、お土産に時計を選んだのであるなら、生ものでないため普通なら、自分で持って帰るだろう。
それをわざわざ郵便で家に送るのはおかしい。
また、語り部の妻が活き活きとして若返ったということと、色々と出かけるようになったこと、そして、語り部は妻に対して、あまり興味がなさそうなところを考えると、妻は不倫している可能性が高い。
つまり、送り付けられたものは爆弾で、語り部を殺すために「受け取って欲しい」と電話を掛けている。
そして、捜査をかく乱するために、送り主を偽名を使い、あて先を妻の名前にしている。
速報
今年は久しぶりに、会社でお盆休みが取れそうだ。
土日を絡めて5連休になる。
今までずっと忙しくて休みなんて取れなかった。
だから、今年は目一杯、羽を伸ばそうと思う。
一人だと味気ないので、地元の友達に、久しぶりに会わないかと連絡した。
すると、みんなノリノリでOKしてくれた。
俺は地方から都会に出てきた方だから、お盆休みは地元の友達の方が俺のところへ来ることになった。
3人の友達が来るから、俺の部屋には4人が寝泊まりすることになる。
多少は狭い感じがするが、まあ、許容範囲内だろう。
どうせ、夜はあんまり寝ないだろうし、何日かは旅館に泊まることになっている。
すごく楽しみだ。
仕事も、休みの間に連絡が来ることがないように、完璧に仕上げておいた。
そして、待ちに待ったお盆休みの当日。
ボーっとテレビを見ながら、友達が来るのを待つ。
だが、なかなか予定の時間になっても来ない。
どうしたのかと思っていたら、スマホに連絡がきた。
それは友達からだった。
出てみると、友達は「事故った。ごめん。行けそうにない」と言っていた。
しきりに謝る友達に、俺は確かにすごく残念だったけど、仕方ないと言った。
「ホント、ごめんな。今度はお前がこっちに来るのを待ってるよ」
そう、友達が言ったので、「わかった。今度は俺がそっちに行くよ」と返した。
それにしても、一気にお盆休みの予定が無くなってしまった。
どうしようかな、と思っていると、テレビで速報が流れる。
「先ほど、高速道路で軽自動車とトラックが正面衝突しました。その事故により、軽自動車に乗っていた3人は即死しました」
凄惨な事故現場の映像。
場所はちょうど、友達が通る予定だった道路だ。
見覚えのある車に、つい友達を重ねてしまう。
死亡事故に巻き込まれなかっただけ、マシか。
そう思うことにした。
それにしても、お盆休みはどう過ごしたものか……。
終わり。
■解説
速報は、事故を起こした友達の映像だった。
つまり、友達は即死している。
なのに、語り部に電話をしてきたのはなんだったのか?
また、友達は「今度はお前がこっちに来るのを待ってるよ」と言っていて、語り部は「今度は俺がそっちに行くよ」と返している。
この後、語り部はあの世へ誘われ、逝ってしまうことになるかもしれない。