本編
AとKが浜辺を散歩しながら、こんな会話をしている。
「なあ、知ってるか? アメリカの近くにあるセイリッシュって海の浜辺に靴が打ちあがるんだってよ」
「え? 靴なんて、どこの海岸にでもあるんじゃない? この辺だってよく靴とか靴下とか落ちてるの見るよ」
「それがさ、そのうちあげられた靴には『中身』が入ってるんだってさ」
「……中身ってもしかして」
「そう。人間の足だよ」
「ぎゃーー」
驚くKを見て、Aがゲラゲラと笑う。
「お前ビビりすぎだって」
「ううー。だって怖くない? 靴の中に足が入ってるんだよ? それって、もちろん、足がちぎれて入ってるってことだよね?」
「……確かに想像すると怖いな」
「でしょ?」
靴の話をAは、自分で想像して背筋が寒くなった。
そこで、この話題を切り上げようとしたが、Kが話を続ける。
「でもさ、なんで足だけ取れて打ち上げられるんだろ?」
「なんかさ、人間の足首って結構、柔らかいんだって。それで、その部分を魚が食べるって話だぞ」
「あー、それで足が取れるんだ」
「てかさ、もう、この話やめようぜ。振っておいてなんだけどさ」
「うん。そうだね」
2人はしばらく無言で浜辺を歩く。
すると、Kが海の方を指差していきなり叫ぶ。
「あっ! あれ! 靴だよ、靴!」
「ビビらせるなって。そういうイタズラはシャレにならんって」
「いや、ホントに!」
Aが海を見ると確かに靴が浮かんでいた。
「……あれ、Tの靴じゃね?」
「え? あ、ホントだ!」
「Tもこのへん、よく散歩するって言ってたぞ」
2人は顔を見合わせる。
「……まさか」
そして、慌てて海の方へと走る。
海に飛び込んで靴を拾い上げるAとK。
恐る恐る靴の中を覗き込んでみる。
だが、そこに足首は入っていなかった。
「よかった……」
「ビックリさせやがって」
2人はホッとして、海岸を後にした。
終わり。
■解説
Tの靴が海に浮かんでいたということは、Tは溺れているということになる。
この後、Tは溺死体として発見されるかもしれない。