サイトアイコン 意味が分かると怖い話【解説付き】

意味が分かると怖い話 解説付き Part221~230

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消失マジック

男は生まれてからすぐに全てを失った。
 
両親は事故で他界し、親戚もいない。
両親が残していたお金も、養育施設の人間に盗られてしまう。
 
施設の中でも虐められ、何も与えられなかった。
それどころか、ボランティアや寄付で貰ったものも取られてしまう始末だ。
 
いつしか男にとって、何も待っていないことや自分の物が無くなることは当たり前のことだと思うようになった。
 
そんなとき、男はマジシャンと出会う。
 
そして、男は消失マジックの虜になった。
取られるのではなく、自分で消す。
消してしまえば取られることもない。
  
その考えが男を消失マジックに熱中させた。
天性の才能と類稀なる努力量によって、男はたちまちトップマジシャンへとのし上がった。
 
男は世界中の観客を魅了した。
多大な富も手に入れ、男の名を知らぬ者は世界にいないと言われるほどの名声も手に入れる。
 
だが、男は決して満足しなかった。
次々に誰も思いつかないような消失マジックを披露しては観客を魅了していく。
 
そんな中、男は完璧を求めて、決して努力を怠ることはなかった。
 
しかし、そんな男にも老いが迫る。
体の衰えを感じ始めた男はすぐに引退を決意した。
 
人々に惜しまれながらも引退のマジックショーを開催する。
 
手足を縛り、目隠しをして全身をすっぽりと透明のシートでくるむ。
そして、考えられる限りの脱出を阻止する仕掛けをしていく。
 
最後にその状態で、溶解炉に放り込む。
一瞬にして男は蒸発して消える。
 
観客たちは悲鳴を上げた。
会場は騒然となる。
 
だが、そのとき、男が壇上に現れて、観客に礼をした。
 
盛大な拍手が巻き起こる。
まさしく、男にふさわしい素晴らしい消失マジックだった。
 
そして、この消失マジックは伝説となった。
男が亡くなってから数百年が経っても、このネタを解き明かした者はいないのだという。
 
終わり。

解説

男は消失マジックに並々ならぬ情熱を持っていた。
完璧を目指した最後の消失マジック。
それは自分自身を『消失』させるものだった。
つまり、男は脱出などしていない。
マジックの途中で自らを焼失させた。
壇上に現れた方が偽物だった。
そのため、男の消失マジックのタネは誰にも解き明かせないのである。

 

健康診断

会社勤めをしていれば、年に1回、健康診断がある。
 
仕事が忙しかったりすると、ついつい生活リズムが狂い、食生活も乱れてしまう。
30代の前半までは特に気にすることもなかったが、35を過ぎると診断結果で引っかかってくる項目も増えてくる。
 
結果を見た後の数週間は改善するために頑張るが、気づくと元の生活に戻っていたりするものだ。
 
そして今年も健康診断の時期がやってきた。
1ヶ月前くらいから食べ物に気を付けたりしているが、それも焼け石に水だろう。
 
はあ……。今回は一体、どれだけの項目が引っかかるんだろうか。
 
なんて考えていたら、いきなり同僚が衝撃的なこと言ってきた。
 
「お前のおしっこくれ」
 
最初、俺は同僚が何を言ってるのかわからなかった。
だが、話を聞いて納得する。
 
その同僚は結婚していて子供もいるのだが、去年の結果で糖尿病一歩手前と言われたのだという。
それを見た奥さんがぶち切れして、強制的にご飯を野菜中心にされたらしい。
 
肉好きな同僚はそれが耐えられなくて、よく会社帰りに隠れて肉を食っていたのだという。
 
「もし、今回、尿検査で引っかかったら、今度は何を規制されるかわかったもんじゃない!」
 
なので、俺の尿を代わりに出して、検査を通過させたいのだという。
俺は独身だが、好きな物が食べれないというのが辛いのはわかる。
 
心の中で物凄い抵抗はあったが、俺は焼き肉を奢って貰うという条件で尿を渡した。
 
そして、健康診断の結果が出た。
 
同僚は無事に通過できたそうだ。
 
よかったよかった。
 
終わり。

解説

健康診断は体の異変を見つけるためにやるものである。
同僚は正しく検査をしなかったことになり、糖尿病の予兆を見逃すことになる。
また、周りは改善されたと勘違いするので、同僚の食生活は元に戻ることになる。
そうなれば、同僚は近いうちに糖尿病になり、もっと苦しむことになるだろう。

 

猫の世話係

いやあ、助かったよ。
前任者が急に仕事に出られなくなってね。
 
でも仕事はどんどん増えてくから、困ってたんだよ。
まさに猫の手も借りたいってね。
 
あ、君、猫は大丈夫だよね?
アレルギーはない?
 
って、あるわけないか。
募集要項を見て、応募してくれたんだもんね。
 
仕事の内容は募集要項そのままなんだけど、猫のお世話をお願いするよ。
 
えっと、ここには毎日、捨て猫だとか保健所で殺処分される予定の猫とかが次々来るから。
君はその猫の世話係ってわけ。
 
あ、時々、お客さんとかが見に来るから、その対応もお願いできるかな?
って言っても、単に見たい猫をお客さんが指名するから、連れてくるだけだよ。
あとは、そのお客さんが猫に変なことしなか、っていうのを見てて欲しいんだ。

 実際の契約だのお金のやり取りだのはこっちでやるから、君は気にしなくて大丈夫だ。
 
うん。まあ、ペットショップだと思ってていいかな。
ただで貰って来た猫を、欲しいという人に高く売る。
いい商売でしょ?
 
しかも猫は死ななくて済むんだから、こっちの心も痛むこともない。
まさにwinwinの関係だね。
 
まあ、ちょっと許可とかその辺は取ってないんだけどね。
ここは黙っておいて欲しい。
 
君だって、給料がもらえなくなったら嫌だろ?
 
ああ、そうだ。
一番大事なことを言い忘れてた。
 
えっと、新しい猫がきたら、あの棚の中に入っている洗剤で洗って欲しいんだ。
あの洗剤を使えば、どんなに汚れてたって一発で綺麗になるんだよ。
しかも毛艶も凄く良くなる。
 
多分、君もビックリすると思うよ。
雑種でも、まるで血統書付きの猫みたく立派になるんだ。
 
この洗剤はうちのオリジナルで、世間では出回ってないんだよ。
 
え?
もちろん、猫に害は全くないよ。
だって、商品に傷が付いたら売れるものも売れなくなるだろ?
 
だから安心して使って欲しい。
 
餌はあそこの棚で、トイレの砂はあっちの棚。
 
あと、適度に運度させてあげてほしいかな。
オモチャもそこにあるからさ。
 
ふふ。どうだい?
猫の世話をして、高給料。
猫好きにはたまらない仕事だろ?
 
それじゃ、頑張ってね。
 
終わり。

解説

猫を洗浄する洗剤は『猫には全く害はない』と言っているが、人間にも害がないとは言っていない。
そんなに凄い洗剤なのに、世間に出回っていないのもおかしい。
つまり、出回らない理由があるわけだ。
また、前任者は『急に仕事に来られなくなった』と言っている。
もしかすると前任者は体を壊したため、仕事に来られなくなったのかもしれない。

 

繁殖

すごくいいバイトを見つけた。
ある薬品会社のバイトなんだけど、微生物を育てるだけらしい。
えっと、育てるっていうか、繁殖?
 
とにかく、そんな感じ。
 
そんなの素人の俺でもできるのかっていうのが疑問だったんだけど、大丈夫らしい。
説明を聞いたら、凄い簡単だった。
 
一日一回、薬を与えるだけ、だって。
それ以外は特に放置でいいらしい。
 
放置の間は何をしてもいいらしくて、俺はその間、ずーっとゲームしてたよ。
でも、全然、文句言われねーの。
 
これで月、50万だってさ。
すげー、美味しいよなぁ。
 
高すぎるって気もして、聞いてみたんだけど、相場的にはこれが当然なんだってさ。
逆に安いくらいらしい。
薬関係は、なんか時給高いらしいよ。
 
あー、でもさ、こんなの学生の頃からやっちゃうと金銭感覚、狂いそう。
これじゃ、大学卒業してからまともに働くのが馬鹿らしくなっちゃうよ。
 
どうせだったら、大学卒業してもこのままここで雇ってくれないかな。
 
なんて、冗談で言ってみたら、今回の繁殖が成功したらOKだってさ。
ラッキー。
 
気合入れて頑張らねば。
 
って言っても、単に一日一回、薬をやるだけなんだけどね。
 
で、月に一回の検診を受けたら、なんと順調だってさ。
繁殖成功。
しかも、他のやつよりよく繁殖してるんだって。
 
なんかボーナス貰っちゃったよ。
またまたラッキー。
 
なんてことを大体、半年続けたくらいだったかな。
 
なんか体調を崩すことが多くなってきた。
熱が出て寝込んじゃうんだよね。
 
昔はこんなことなかったのにな。
 
けど、まあ、バイトはもちろん続けたよ。
バイト代美味しいしね。
 
でも、あるとき、いきなりぶっ倒れた。
高熱が出て、動けなくなったんだよね。
 
あーくそ。ダルい。
 
でも、繁殖はすごい順調らしい。
 
終わり。

解説

バイトで繁殖させる微生物をどうやって育てているのかが、語り部は語っていない。
一日一回、『薬を与える』だけの仕事で、ここまで高給なのはあやしい。
同じようなバイトに治験というものがある。
バイトの人間の体を使って、薬の効果を見るものだ。
 
語り部がやっているバイトはそれと同じようなものではないだろうか。
つまり、繁殖させる場所は『語り部の体内』なのである。
『検診』を受けて、『繁殖』が出来ていると言っているのでその可能性が高い。
 
また、語り部が体調が悪くなるにしたがい、繁殖が進んでいくということは、最終的に語り部は亡くなってしまうのかもしれない。

 

フードプロフェッサー

俺の妻は驚くほど料理が下手だ。
洗濯とか掃除とか、そういう他の家事は完璧なのに、料理だけ壊滅的なのだ。
 
正直、俺は人には得手不得手があるものだから、料理が下手なことに関してはそれでいいと思っている。
 
食事は弁当とか、宅配とか、今の時代、色々と便利なものがあるからそれを使えばいい。
 
でも、妻はそうは思っていないようで、主婦っていうのもあって、頑張って料理をしている。
それ自体は微笑ましいことだが、いつも手が傷だらけになっているのは無視できない。
包丁を使うのも下手みたいで、いつか取り返しのつかない怪我をするんじゃないかと思うと気が気じゃない。
 
無理することはないと言っても、妻は自分で作ることを止めなかった。
 
そこで俺は高性能のフードプロフェッサーを買って、妻にプレゼントした。
かなり高かったが、どんなものでも刻むことができると書いてあった通り、骨が付いた肉でさえも、切ることができる。
 
それ以来、味はともかく、妻は手を怪我することがなくなった。
結婚するときのように、綺麗な手に戻っていて、俺は安心する。
 
だが、そんなある日のことだった。
妻がビーフシチューを作ってくれた。
 
味は褒められたものじゃなかったが、必死になって作ってくれたことを考えると美味しく感じる。
 
ただ、食べていると、ガリっとした違和感のある触感が口の中に走った。
 
なにかと思って口から出してみると、それは爪だった。
 
うーん。これでもダメか。
 
今度はもう少し高いのを買ってあげようかな。
 
終わり。

解説

語り部の妻の手は怪我をしていない。
では、いったい、ビーフシチューの中に入っていた爪は誰のものなのだろうか。
もしかすると入っている肉はビーフではなく誰かの手の肉なのかもしれない。

 

学校のイジメ

僕は学校でイジメられている。

イジメって言っても、自殺したくなるようなそんな酷いイジメじゃない。
もしかしたら、こんなことをイジメだなんて言ったら、笑われるかもしれない。
 
昼休みにちょっとパシリをさせられたり、掃除当番を押し付けられたりするくらいだ。
 
僕をターゲットにしているのは、Sくん、Tくん、Kくんの仲良し3人組だ。
いつも3人、一緒に行動している。
 
今日も、3人が化学準備室の掃除当番だったのに、僕1人に押し付けて、3人は帰ってしまった。
 
本当は僕も早く帰ってゲームの続きをしたかったけど、もし、断ってイジメが酷くなったら目も当てられない。
掃除当番くらいは二つ返事で引き受けないと。
 
1人で掃除していると化学の先生が戻って来て、僕1人で掃除していることに驚いていた。
その後は先生も手伝ってくれて、ジュースまで奢って貰えた。
 
これはラッキーだった。
 
たまにはこういうことがあっても罰は当たらないよね。
 
なんて思っていたら次の日、僕は事件に巻き込まれてしまった。
というのも、昨日、Sくんが陸橋の階段から落ちて死んでしまったのだという。
 
そして、僕がその事件の容疑者にされてしまったのだ。
 
教室のみんなは、普段、僕がSくんたちからイジメられていることを知ってたし、そのとき、僕を見たなんていう証言が出てきたからだ。
そして、僕がそのとき化学準備室で掃除していたことを教室のみんなは知らないから、僕にはアリバイがないということになった。
 
それで、取り調べを受けることになったんだけど、化学の先生が僕のアリバイを証言してくれたことで、なんとか僕の容疑は晴れたようだ。
 
イジメられた上に、犯人扱いにされるなんて、本当についてない。
お父さんやお母さんに相談して、転校した方がいいんだろうか。
 
終わり。

解説

事件の日に、語り部を見たという証言は嘘になる。
では、誰がそんな嘘を言ったのか。
それは、語り部が1人で化学準備室を掃除していることでアリバイがないことを知っている人間になる。
そして、それを知っているのはSとTとKである。
では、なぜTとKがそんな嘘を付いたのか。
それはその2人が犯人で、語り部に罪を擦り付けようとしたからになる。
仲良し3人組と思われていたが、実はTとKはSを殺したいほど憎んでいたのである。

 

示談金

青年の親は金持ちだった。
小さい頃から何不自由なく育った青年だが、それを鼻にかけることなく、真っすぐに成長した。
 
大学生になると、親から自立するため、一人暮らしを始めてアルバイトで学費を稼ぐと言い出した。
親は、青年がそう言ったことに感動し、最後に車だけプレゼントしたいと、半ば強引に車を買い与えた。
 
青年は感謝し、その車を大切に乗っていた。
 
だが、そんなある日。
青年はバイトと大学の授業で疲れ果てていた。
 
バイトの帰り道に居眠り運転をしてしまい、ある男をはねてしまう。
轢かれた男は打ち所が悪く、下半身不随となってしまった。
 
男は青年に対して、怒り狂い、一生かかってでも償ってもらうと言い出す。
町の中でも有名なごろつきで、人に迷惑をかけてばかりの男だった。
 
男の周りの人間は今まで悪さした罰が当たったのだと噂する。
それも気に入らなかった男は、ことあるごとに青年に当たり散らした。
毎日のように見舞いにこさせ、そのたびに高い物を要求し、ついには金までせびり始める。
 
青年の親が見かねて、弁護士をつけて男との接触をさせないようにした。
しかし、男は部下を使い、青年と接触する。
弁護士は男に慰謝料を払うことで示談を申し出る。
だが、男はたとえ、1億円を積まれても絶対に示談に応じる気はないと言う。
 
男の両親は、相手の青年を不憫に思い、息子である男を説得するが聞き入れてはくれない。
それどころか、男は両親に対して、はした金で示談させようとすることにイラつき、暴力を振るう始末だった。
 
周りの人間が困り果てていたとき、一人の女性が現れ、青年の両親と男の両親にこう言った。

「1000万をいただければ、示談を成立させてみせる」と。
 
もちろん、青年の両親は二つ返事でお願いしますと答える。
 
数日後。
女は見事、3000万で示談を成立させた。
 
終わり。

解説

男は1億円でも示談には応じないと言っていたのに、なぜ3000万で示談が成立したのはおかしい。
そのため、男は3000万の金額で了承していないと考えるのが自然である。
だが、男以外が示談を決められる場合がある。
それは被害者が死んだときで、その場合は男の親族が決められることになる。
つまり、女は男を1000万で始末した可能性が高い。

 

力士

男は子供の頃から相撲の天才だと言われていた。
小学1年生の頃からわんぱく相撲で負けなしだった。
 
また、中学、高校でも敵なしで周りからは将来、絶対に横綱になれると期待がかけれられていた。
 
だが、男には不安があった。
祖父も父も同じく力士であったが、2人とも関取になれず、若くして引退しているのだ。
 
自分は大丈夫だと言い聞かせ、絶対に横綱になってみせると決意を固める。
 
当然、男は高校卒業後、すぐに相撲部屋に入った。
 
力士としてデビューし、勝ち星を重ねていく。
当然、周りからの期待も膨らんでいった。
 
3年が経った頃、男は十両に上がれるチャンスがやってきた。
相撲の世界で言えば、それは異例の早さと言っていいほどだ。
 
だが、男は焦っていた。
時間がない、と。
 
幕内をかけた大勝負では男は圧巻の強さで勝負を決めたのだった。
 
そこから破竹の勢いで勝ち進み、大関へと昇進した。
さらに男はその年、全勝で優勝を果たし、ついに横綱の道も見えてきた。
 
次の年。
相撲ファンは唖然とした。
 
なんと男が引退を表明したのだ。
怪我でもなく、絶頂期での引退。
 
周りは引退を惜しんだが、引き留める者はいなかった。
 
そして、引退の断髪式の日。
男はどうしても髷を落とせず、泣いたのだった。
 
終わり。

解説

男は頭部が薄い家系であった。
若くして、進行が激しく、髷が結えない状態になってしまったため、祖父も父も引退している。
そして、男も同様に髷が結えなくなり、引退を決意したのだ。
断髪式の当日も、髷を結えなかったことで髷を落とせずに泣いたというわけである。

 

保険金

娘夫婦はとても仲が良い。
そして、娘の旦那はとてもできた人間で、妻に先立たれた私も大切にしてくれる。
 
なにかあれば、家に招いてくれる。
私にとって、家族と言える人間はもう、娘と娘の旦那しかいない。
本当に、娘はこの旦那と結婚してくれてよかった。
 
今日も娘の家にお呼ばれした。
なんでも、旦那が部長に出世したから、そのお祝いパーティーを開くということで、私を呼んでくれたのだ。
 
娘の料理に舌鼓をうち、楽し気な雰囲気に、私はお酒が進んでしまった。
酔って帰るのも危ないと言われ、その日は娘の家に泊まることになったのだ。
 
急な泊りになっても、旦那は嫌な顔一つしない。
本当に出来た人間だ。
 
食事が終わると、映画を見ようという話になった。
DVDで久しぶりに映画を見る。
 
内容は遺産相続がきっかけで親戚中が殺し合いをするという内容だった。
 
私はその映画の内容を見て、つい笑ってしまった。

「うちはこうはならんだろうなぁ。私にはこれと言った財産もないし、金なんかで殺し合いにはならんだろ」
 
そういう私の言葉に、娘も娘の旦那も笑いながら頷いた。
だが、そんなとき、娘の旦那がこう切り出した。

「財産がないということは、逆にいうとなんかあったときは大変ですよね」
「そうねぇ。うちも貯えが多いってわけじゃないし……」
 
娘もその言葉に頷く。
そう言われてしまうと、私が何かしらの財産を残していないことが気まずくなる。

「もし、俺たちになにかあったら、誰がお義父さんを見ることになるんだ?」
「え? 確かにそうね。うちには親戚もいないし」
「いや、そんなことを気にするんじゃない。大体、私より先にお前たちになんかあることなんてないさ」
「でも、万が一ってことが……」
 
急にその場が暗くなってしまう。
そんなとき、ふと娘の旦那がこういい出した。
 
「生命保険に入っておこう。俺と加奈は、受取人をお義父さんに。お義父さんは受取人を加奈にするっていうのはどうかな?」
 
その言葉に娘も同意する。
 
そうだな。
私の年から生命保険をかけたところで大した金額にはならないだろう。
だが、私が死んだときに少しでも娘夫婦にお金が入るというなら、それがいい。
 
私も同意し、私たちはそれぞれ生命保険に入った。
 
それから数ヶ月が経ったある日。
なんと娘が死んだと連絡が入った。
 
なんと事故死らしい。
デパートの階段から落ちて打ち所が悪かったということだ。
 
私は悲しんだ。
大切な娘が死に、生きる気力さえなくなってきた。
 
多額の娘の生命保険のお金が降りてきたが、そんなことはもうどうでもよかった。
こんな金なんて返すから、娘を返して欲しい。
 
最近はすっかり体力が落ち、食事もろくにとらなくなった。
 
早く娘と妻のところに行きたい。
毎日、そう考えるようになった。
 
終わり。

解説

語り部の娘が死んで多額の保険金が降りたと言っているところから、旦那がかなり高額の保険に入れていたと思われる。
その保険金は語り部の元に降りてきたが、この語り部が死んだ後は、息子である娘の旦那が相続することになる。
語り部の娘が死んだとき、保険金の受け取りが父親になっていたため、旦那は怪しまれずにすんだ。
つまり、娘の旦那は巧妙に保険金殺人をした可能性が高い。

 

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