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意味が分かると怖い話 解説付き Part151~160

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一心同体

僕とカイルは双子だ。
一卵性双生児ってやつで、顔も性格もそっくり。
勉強も運動も、食べ物の好き嫌いも全部一緒だ。
 
まさしく僕とカイルは一心同体。
 
カイルは僕が考えていることがわかるし、僕もカイルの考えていることがわかる。
昔はよく、それを利用して、色々と悪戯したものだ。
 
そんな僕らもやがて大人になっていく。
だけど、どれだけ時間が経っても、どんなことがあったとしても僕らは双子で、関係は変わらない。
 
カイルは僕が考えていることがわかるし、僕もカイルの考えていることがわかる。
 
そして、僕らが唯一恐れていたことが現実になった。
 
そう。
お互い、同じ女性を愛してしまったのだ。
 
たとえカイルであろうと、絶対に譲れない。
そして、それはカイルも同じように思っている。
 
だけど、僕らの関係を崩したくない。
それも本音だ。
 
だから僕はカイルにある提案をした。
するとカイルも全く同じことを考えていたようだ。
 
二人の意思は同じ。
それはずっと変わらない。
だから、その提案を受けることにお互い、迷いはなかった。
 
僕はその女性と結婚した。
そして、僕たちはこれからも一心同体だ。
 
終わり。

解説

お互い殺し合いをして、生き残った方がその女性と結婚するという提案をした。
そして、語り部が生き残った。
語り部とカイルは本当の意味で一心同体なった。

 

呪いの日記

私は昔から日記をつけている。
 
小学校に入学するときにお母さんからプレゼントされたものだ。
毎日数行の日記をつけるところから始めて、日記帳がいっぱいになったら新しい日記帳を買う。
それの繰り返しをして、もう10年が経った。
 
その日あった出来事を日記に書くのが日課になっていた。
 
高校に入学した頃から、私は苛められるようになった。
最初は悪戯じみたことから、徐々にエスカレートし、危害を加えられるようになるまでさほど時間はかからなかった。
 
私を苛めていたのは主にYだ。
その頃の日記にはYへの恨みがばかりが書かれている。
 
私は精神的に病んでしまい、登校拒否になった。
寝て起きて、ご飯を食べて、日記を書く。
そんな毎日の繰り返し。
 
だけど、そんな私に転機が訪れた。
なんと、Yが階段から落ち、大けがをしたというのだ。
Yは顔に大けがを負い、それを理由に学校に来なくなった。
 
それからというもの、私は苛めから解放され、また学校に通えるようになったのだ。
 
Yがいなくなってからの高校生活は楽しかった。
今までの反動と言っては変かもしれないけど、勉強も楽しく感じ、成績もグングン上がって、諦めていた大学にも入ることができた。
 
大学に入った私は初めての恋をした。
彼氏ができ、大学のキャンパスライフも充実していた。
 
……だけど、それも長くは続かなかった。
彼氏は二股をしていて、私とは遊びだったのだ。
 
私は彼氏に捨てられ、どん底まで落ち込んだ。
この頃の日記も、やっぱり彼氏への恨み言ばかりになっている。
 
そんなとき、その彼は自動車事故で死んだ。
こんなことを言うのは不謹慎かもしれないけど、ざまあみろと思った。
 
そして、大学を卒業後、就職をした。
就職先では嫌な上司がいて、色々と苛められた。
 
私はすぐに日記帳に恨み言を書いた。
この頃から私はなんとなく、この日記帳に恨み言を書けば相手に不幸が訪れるのではないかと思うようになった。
 
そして、その考えが合っていることが証明された。
 
その嫌な上司は何者かにナイフで刺され、重体になったのだ。
 
それからというもの、私は嫌なことがあればすぐに日記に書くようになった。
そのたびに、日記に書いた相手に不幸が訪れる。
 
スカッとした日々が続く。
 
だが、残念ながら私は縁に恵まれることなく、独身のまま60歳を迎えた。
仕事を辞め、両親の介護をする毎日になった。
 
私は介護に自分の時間が取られることに苛立ちを覚えるようになった。
そして、久しぶりに私は日記帳に母への恨み言を書いた。
 
すると次の日、母は自殺した。
 
それを見て、私は完全に吹っ切れた。
父にも死んでもらい、私はもう一度自分の人生を歩もうと考えた。
 
その日、私は日記帳に父への恨み言を書いた。
 
あれから5年が経つが、父はまだ何事もなく生きている。
 
終わり。

解説

日記帳に書いた人物が不幸になっていたのは、日記帳を買い与えた母が実行犯だった。
なので母は『自殺』であり、母が死んでからは実行犯がいなくなったので、父が生きているという状況になっている。

 

シリアルキラー

妹が殺された。
 
妹は人当たりもよく、誰かに恨みを買うようなやつじゃなかった。
惨い殺害方法から、警察は怨恨ではなく快楽殺人だと判断したようだ。
 
だが俺は知っている。
妹をずっと付け回していた男を。
 
妹は気にしていなかったが、おそらくストーカーの類だろう。
もちろん、俺はそのことを警察に知らせた。
 
だが、警察はそのことを取り合ってくれなかった。
 
だから俺は自分で探すことにした。
その、妹を付け回していた男を。
 
一週間、駅で張り込みをしていた甲斐もあり、俺はその男を見つけることができた。
その男を観察していると、その男もどうやら人を探しているようだった。
 
というより、それは次の獲物を探しているような、そんな目付きだ。
男は目星をつけたのか、ある少女を尾行し始める。
その少女は妹と同じような年や背格好で、髪も艶のある黒で長い少女だ。
 
間違いない。あいつが妹を殺したんだ。
 
俺はすぐに理解した。
こうやって妹も、あいつに選ばれたのだと。
 
俺はその男を尾行し続けた。
男はやたらと周りを気にしていて、犯行を行う機会をうかがっているようだった。
 
絶対にあいつを捕まえてみせる。
その思いだけが俺を支えていた。
 
だが、事件は思わぬ方向へと動いた。
 
なんと、新たに少女が殺害されたのだ。
被害者はやはり妹と同じような年齢で背格好。
そして、黒く長い髪だった。
これで3人目の被害者だ。
 
俺は混乱した。
あの男からは目を離していなかった。
だから、犯行は無理なはずだ。
 
……やっぱりあいつは犯人じゃないのだろうか?
 
そう思ったが、その考えはすぐに掻き消えた。
俺の勘が言っている。
――あいつが犯人だと。
 
そこで、俺はあることに気づいた。
俺が尾行を始める前に、既にあいつは犯行を行っていたのではないかと。
 
つまり、俺が尾行を始めた時にはもう、あの少女は殺されていた。
それなら説明が付く。
 
だから俺はあの男の尾行を続けた。
あの男はいまだに見つけた少女を尾行し続けている。
 
しかし、連日の尾行で俺の体力は限界に来ていた。
あの男を見張っているときの、わずかな気の緩みで、俺は数分の間、眠ってしまったのだ。
 
あの男と、あの男が尾行していた少女を見失ってしまった。
俺は慌てて2人を探した。
だが、見つけることはできなかった。

俺が目を離したすきに少女が殺されてしまったらと考えると、口惜しさと自分への怒りで気が狂いそうだった。
 
そんな中、あるニュースが流れた。
犯人が捕まったと。
 
映像に映し出された犯人の顔はあの男のものではなかった。
つまり、警察は誤認逮捕をしたというわけだ。
 
俺は警察にタレコミという形で、あの男の情報を伝えた。
だが、警察は俺の伝えた情報を無視して、捕まえた男が犯人と断定している。
 
このままではあの男が野放しになってしまう。
また、妹のような少女が殺されてしまう。
それだけはダメだ。
 
俺は決意した。
 
――あの男を殺すしかない。
 
たとえ俺が捕まることになったとしても。
 
俺はあの男の部屋に忍び込み、眠っているところを刺した。
何度も。何度も。
 
男は声を上げる間もなく死んだ。
 
俺はホッとした。
これでもう男に殺される少女は出ない。
妹にも顔向けができる。
 
自首するために電話がある部屋へと行く。
すると、そこにはたくさんの少女の写真が貼ってあった。
 
そして、そこには妹の写真も。
 
警察に捕まった後、俺はあの男が探偵だと聞いた。
 
終わり。

解説

語り部が殺した男は、警察に協力していた探偵だった。
探偵は推理で、次の被害者を予想して少女を尾行していたのである。
語り部の妹に関しても、同様に尾行していたところを見られていた。
そして、その探偵の情報により、警察は真犯人を捕まえることができた。
(探偵のおかげで尾行している少女は助かった)
つまり、語り部は真犯人が捕まっているのに、事件に協力していた探偵を殺してしまったということになる。

 

抗争

世界で大きな戦争が起こり、多くの人間が死んだ。
 
その影響で各地は荒れ果て、栄華を誇っていた人間の世界は見る影もなくなってしまった。
しかし、それでも人間は繁栄するために集団を作り、発展していく。
 
いつしかその集団は小さな国へと成長した。
だが、近隣にある国がそれを脅威に思い、叩き潰そうと攻めてきた。
 
小さな国は抗い、必死に戦い続けた。
そして激闘の末、その小さな国は逆に攻めてきた国を亡ぼすに至った。
 
小さな国の兵士は遺恨が残らないようにと、攻めてきた国の人々を全て殺してしまう。
 
これで、この小さな国は世界の半分を手にしたことになった。
 
終わり。

解説

国を一つ亡ぼしたことにより、世界の半分を手に入れたということは、逆に言うと小さな国程度の人間しか、この世界には残っていないということになる。
大きな戦争で人間は絶滅に瀕している状態になっていた。
だが、そんな状況でも人間は争いを止めないということを意味している。
この世界の人類が滅ぶのに、そこまで時間はかからないということになる。

 

カムイ

男は猟をするのが趣味だった。
 
狩猟期間になれば、猟銃を持って山に入る。
そして、シカやイノシシを撃って帰ってきては、周りの人たちに振舞っていた。
 
あるとき男は山で熊に遭遇した。
いきなり襲われたので、男は持っていた猟銃で熊を撃ち殺した。
 
だが撃ち殺した熊は子供を連れていた。
男は無視して山を出ようと思ったが、見捨てることが出来ず、子熊を連れて帰ることにした。
 
幸い男は山の近くに別荘のような家を持っていて、そこには滅多に人はやってこない。
そこに檻を作ってその中で育てることにした。
ある程度大きくなったら、山に帰そうと思っていたようだ。
 
数年が経ち、熊はかなり大きく育った。
その頃になると熊の食べる量も膨大になり、男の経済力では維持するのが難しくなってきていた。
そのため、熊はいつも空腹状態になっている。
 
そこで男は熊を森に帰すことにした。
 
しかし、熊は森へと帰らずに町に降りて行ってしまった。
食べるために人を襲い、3人の人間が亡くなった。
 
一度、人間を食べた熊は人を襲い続ける。
町はすぐに猟友会に頼んで、熊を射殺してもらった。
 
多数の死傷者を出した獣害事件により、町で猟に出掛ける人はほとんどいなくなってしまったのだという。
 
終わり。

解説

逃げた熊は町に降りた時点で「食べるため」に人を襲っている。
子熊の状態から育てられたはずなので、「人を食べた」ことはないはずである。
では、どこで「人を食べた」のか。
それは山に帰そうと「檻を開けた」ときだと考えられる。
つまり、空腹だった熊は育ててくれた男を襲って食べてしまったのである。
また、熊が町へ降りて行ってからは、男のことは一切出てきていない。
その時点で死んでしまっているからである。

 

LINEの友達

僕は昔から、暗いだの、ボッチだの、何考えているかわからないだの言われてきた。
 
学生の頃は友達なんか作らなくてもやり過ごせていた。
だが、就職して仕事となるとそうもいかない。
 
最低限のコミュニケーションを取るように強要される。
僕にはそれが苦痛だった。
極力、コミュニケーションを取らないように仕事をしてきたが、やっぱりそれだと支障がでるということで問題になった。
 
最初は上司になにかにつけて飲みに付き合わされていた。
お酒でも飲めば、打ち解けるとでも思ったんだろう。
だけど、僕はお酒が飲めないというか嫌いだ。
だから、はっきり言って、迷惑だった。
おっさんと2人で酒を飲むのが楽しいわけがない。
 
そんな僕の様子を見て、周りの人たちが上司にパワハラになると言ってくれた。
それからというもの、上司からお酒を誘われることはなくなった。
 
当然だけど、やっぱり仕事での僕のコミュニケーション不足は変わらない。
 
そこで今度は、上司がある本を渡してきた。
それは会社での人間関係を上手くやる方法みたいな、本だった。
 
ほとんど興味はなかったが、読まないというのも失礼かと思い、ザっと目を通した。
そこに書いてあることで目を引いたのは「今の若者は直接的な繋がりでは本音を言わない。逆にSNSのような見も知らない人の方が本音を話すものだ」という部分だ。
 
確かにその通りかもしれない。
顔を合わせて話すよりも、知らない人とネット越しで話す方が本音を言えるような気がする。
 
そして、その本には「本音が言える人ができれば、日々のストレスも減り、実社会でも上手くいくことが多くなる」なんてことも書かれていた。
 
とはいえ、今のところ僕にはSNS上で話をする友達なんかいない。
かといって、これから作るというのも面倒くさいし、どうやってやればいいのかもわからない。
 
次の日、上司に本を読んだことを報告すると、一枚のカードを渡してきた。
それにはLINEの友達を募集できるサイトのURLが書いてあるらしい。
一応、ありがとうございますと受け取っておいた。
 
面倒くさいが登録だけはやっておいた。
でも、こっちから動くなんてことはしなかった。
 
それからしばらく経って、すっかりサイトのことを忘れた時にLINEに連絡が来た。
サイトを見て連絡してきたのだという。
 
最初は面倒くさいからブロックしようかと思ったが、相手は女性らしかったので僕はドキドキしながらも話しかけてみた。
するとすぐに返事が来た。
 
ただ、僕はこういうとき何を話していいのかわからない。
だから、それをそのまま送ってみた。
すると、なんでもいい、日ごろのことを書いてくれればいいよ、と返ってきた。
 
それからというもの、僕はその人とLINEでやり取りすることが楽しみになった。
あの本の言う通りだ。
ネット上でも話せる人がいれば、会社でのストレスが減っていくのが自分でもわかった。
 
その頃から僕は会社でも明るくなったと言われる機会が多くなった。
それは自分でもそう思うくらいだ。
 
今日も会社であったことを書き込む。
ただ、今日は凄く嫌なことがあったので、そのことを書いた。
僕の上司は、ホントクソみたいな奴で、ホント死んでほしい、と。
 
次の日。
僕はチームから外され、窓際の部署に異動になった。
 
終わり。

解説

語り部がずっとやりとりしていたLINEの相手は上司だった。
本もサイトも上司から渡されている。
上司も本を読んで、ネット上で語り部の悩みを聞こうとしてやったのだと思われる。

 

復活祭

小さな村にある教会。
その教会の神父は村の人たちの信仰心が著しく下がって来ていることに心を痛めていた。
 
祈りを捧げるために教会に訪れる人もほとんどいなくなり、教会へのお布施もかつての10分の1になっていた。
教会の運営を手伝っている人たちも、これ以上、ボランティアで手伝うのは難しいと言い始める始末。
 
このままでは教会を維持することもできない。
神父と教会の運営者たちは頭を抱えた。
 
そんなある日。
神父は思い詰めてしまい、首を吊ってしまった。
 
神父が死んだというニュースは瞬く間に村中に伝わったが、そのほとんどの人は興味を持たなかった。
村の人たちはこれで教会も閉鎖され、潰れるだろうと思っていた。
 
しかし、その数か月後のイースター。
つまりは復活祭の日に奇跡が起こった。
 
なんと死んだはずの神父が復活したというのである。
 
その話を聞いた村人たちは教会に殺到する。
するとそこには生前と変わらぬ神父の姿があった。
 
そんな奇跡を目の当たりにし、呆然とする村人たちの前で神父は説法をした。
そのことで、村人たちの信仰心も高まっていった。
 
そして次の日。
教会は神父の亡骸を公開した。
復活祭が終わり、神父は再び、天に帰ってしまったのだと。
 
教会はさらに神父の亡骸をミイラにし、聖遺物として教会に安置した。
それからというもの、村の人々たちはもちろん、噂を聞きつけ、他の町からも神父を見に来る者たちが相次いだ。
 
教会を運営する者たちはこれで教会が潰れることはないだろうと喜び、神父のミイラに手を合わせて祈った。
 
終わり。

解説

最初に神父が首を吊った際、『死んだ』とは書かれていない。
また、村人は『噂』を聞いただけで、誰も神父の遺体を見ていないことになる。
つまり、神父は首を吊ったが死んでいなかった。
そして、数か月間身を潜め、復活祭に復活したと見せかけたのである。
(教会の運営が行き詰まった際に、この計画を思いつき、実行した)
その次の日に、教会を運営する者たちに神父は殺され、遺体をさらされたというわけである。
もともと、教会を運営は「ボランティアで働くのは嫌だ」と言っているところから信心深くない。
つまり、金を儲けるために神父を殺害し、聖遺物をでっち上げた。

 

未開の地に潜む部族

探検家の友人が行方不明になった。
 
探検家と言っても本格的じゃなくて、旅行好きに近い感じなんだけど。
有名な観光地じゃなく、秘境と言われるような変わったところに行くことが多い。
 
周りからは何度も危ないからやめた方がいいと言われていたのに、本人は大丈夫と言って聞かなかった。
けど、今回はその心配が的中で、5日前から連絡が取れなくなっている。
 
友人の母親に頼まれ、現地に飛んだ。
旅費と謝礼を貰っているから、ある意味旅行気分だ。
 
友人が行っていたのはジャングルの奥地。
きっとスマホの充電が切れたんだろう。
さっさと合流して、友人と遊ぶことばかり考えていた。
 
だけど、そんな能天気な気分は、現地の人たちに話を聞いて一気に吹っ飛んだ。
友人が入っていったジャングルは危険な部族が住むところらしい。
その部族はとても危険で、その部族に会った人間は誰も帰ってきていないのだという。
 
ただ、友人は楽天的だが危険が好きというわけではない。
その話は聞いているはずだから、その部族が出そうな奥地までには行ってないと思う。
となると、道に迷ったか怪我をして動けなくなっているのかもしれない。
 
すぐにジャングルに入って、友人を探す。
現地の人たちの言う通り、部族が出るところを避けて進む。
きっと、友人もそのあたりを進んでいるはずだ。
 
もし、そのあたりにいなかったら、友人には悪いが戻ることにする。
自分の命が一番だ。
さすがに友人の母親もそれはわかってくれるだろう。
 
このとき、完全に自分に危険が及ぶなんてことは考えていなかった。
危険なんて起こるわけがないと高をくくっていた。
だけど、それはあっさりと破られてしまう。
 
なんと、ジャングルの中で罠にかかり、見たことのないような変な格好をした人たちに捕まってしまったのだ。
おそらく、現地の人たちが言っていた部族だろう。
 
もう、生きては帰れない。
そう覚悟した。
せめて苦しまない方法で殺してくれと心の中で祈った。
 
だが、そんな祈りとは裏腹に、部族たちのもてなしに困惑した。
 
その夜は何かお祭りのようなものが開かれ、まるで自分を歓迎してくれているようだった。
なにより驚いたのが、部族の中で英語を話せる人がいたことだった。
あっちも自分も片言だったが、なんとか意思疎通はできた。
 
話に聞いていたような部族ではなかった。
みんな親し気で笑顔を向けてくれる。
 
今回のお祭りも神に捧げる儀式のようなお祭りで、いつも来訪者が来たら盛大に行われているらしい。
祭りと言えばお肉と思ったが、出てきたのは意外にもフルーツばかりだった。
それがビックリするくらい美味しい。
見たことのないようなフルーツだったが、パイナップルに似たような味だったが、断然こっちの方が美味しい。
普通に輸入して売り出せば、人気が出そうだ。
 
そして、その他には野菜も多かった。
野菜サラダのような感じで、肉が一切入っていない。
これもすごく美味しくて、肉がなかったのに大満足の食事だった。
 
部族の人たちも同じものを食べていた。
この部族は草食なんだろうか?
 
祭りの後はなんとお風呂に入れてもらった。
こんなところでお風呂にはいれるなんて思ってなかった。
しかも、お風呂のお湯は炭酸水みたいな感じで、入るとシュワシュワとして気持ちよかった。
リラックスができ、体がほぐれていく感覚がした。
 
お風呂から上がると、今度はマッサージを受けた。
凝り固まった体がほぐされていく。
普通ならこんなのはかなりのお金がかかるだろうってくらい、丁寧にマッサージしてくれた。
 
そんな日が3日続いた。
部族の人たちにそろそろ帰りたいと話すと、笑顔でわかったと了承してくれた。
そして、念のため、部族の人に友人のことを聞いた。
 
スマホで写真を見せると、なんと友人はここに来ていたのだという。
 
良かった。
これで友人を探す手間が省けた。
考えてみるとある意味、友人のおかげでいい思いが出来た。
友人には感謝しかない。 

友人に会いたいというと、明日の朝、会わせてくれるらしい。
その夜、友人と合流した後、どこで遊ぶかを考えながら眠りについた。
 
終わり。

解説

友人がその部族の村にいるなら、なぜ3日間会えなかったのか。
そして、なぜ、次の日の朝なのか?
 
また、語り部が部族にもてなされた内容は、全て「肉を柔らかくする」ものである。
つまり、この部族は食人をするということ。
友人は既に食われていて、語り部は次の日の朝に食べられるということ。
部族の人は「あの世」で友人に会わせるということである。
 
さらに、現地の人たちは食人の部族に悩まされ、外からやってきた人間をわざとこの部族に捕まるように、安全な場所と偽って教えている可能性がある。

 

バラバラ死体

公園のごみ箱から切断された男性の右手が見つかった。
 
それは一週間ほど前から行方不明になっている、26歳の会社員のものだった。
俺たち警察は行方不明になった前後の、被害者の足取りを調べ上げた。
 
地道な聞き込みと、防犯カメラ、ドライブレコーダーなどありとあらゆるものを駆使して、被害者の行動を把握した。
 
すると見えてきたのが、Aという女性だった。
そして、俺たちは、今度はAという人物を調べ上げた。
 
特に被害者との接点はない。
おそらく、被害者を拉致する際に話したのが初だろう。
 
Aは、被害者が会社から帰る際の人気のない道で、声を掛け、スタンガンを使って気絶させて自宅まで連れ込んだ。
そして金品を奪い、バラバラにして色々な場所に死体を遺棄したのだろう。
 
偶然通りかかったタクシーのドライブレコーダーの隅に、男を抱えて路地裏へいく女性の姿が写っていたこともあり、俺たちはAの逮捕に漕ぎつけた。
 
最初は容疑を否認していたAだが、根気よく取り調べをしていく中でぽつぽつと自供を始めた。
 
Aと被害者の男は、実は初対面ではなく、駅で人ごみにぶつかって転んだところを助けてくれたのだという。
そこから思いを寄せるようになり、ストーカーまがいのことをしていたようだ。
 
しかし、被害者の男には恋人がいることがわかり、別れてもらうように説得するためにスタンガンで気絶させて自宅に連れ込んだのだという。
 
当然、俺たちには理解できない考え方だったが、それでも根気よく話を聞き出す。
 
被害者の男は恐怖し、恋人と別れてAと付き合うどころか、Aを罵ったのようだ。
そのことでAは頭に血が上って殺してしまったらしい。
 
そして、俺たちは今度は、バラバラにした死体をどこに破棄したかを聞き出す。
 
最初はもう忘れたと言い出し、頭を抱えたが、ここも根気の勝負だ。
左足を契機に、徐々に遺棄した場所を自白していくA。
 
左手と上半身を山奥に、右手と下半身を海に、右足と頭を川に遺棄したと自白した。
その供述の場所を警察官たちが捜索していく。
そして、Aが供述通りの場所でそれぞれ遺棄されていた遺体が見つかった。
 
これで五体すべてが揃った。
俺たちができることはここまでだ。
あとは検察の仕事になる。
 
事件も解決し、今日は久しぶりにゆっくり眠れそうだ。
 
終わり。

解説

最初のごみ箱と海で「右手」が2つ、見つかっていることになる。
つまりAは少なくても、もう一人殺している可能性が高い。

 

クレーマー

俺はショッピングモールの苦情受付の仕事をしている。
 
基本的に怒っている客を相手にするので、日々のストレスは半端じゃない。
先輩なんかは、笑顔で適当に相槌を打って聞き流せばいいだけの仕事だから楽だよ、なんて言っているが俺はまだまだその境地には及ばない。
 
特に、Oというクソババアがいるのだが、俺を目の敵にしているのか毎日のようにやってきて、ひたすら文句を言ってくるのだ。
短くて3時間。
長くて6時間も居座られたことがある。
 
上司や同僚からも時間をかけすぎだの、その分のしわ寄せがこっちに来るだの、文句を言われる始末。
 
帰ってくれないのだから仕方ないと言っても、開き直るなと怒られてしまう。
最悪なことに、ババアはいつも俺を指名してきて、俺が休みの日は10分くらい話して帰るらしい。
だから、周りは俺がそのババアを使ってサボっていると思われている。
 
冗談じゃない。
こっちは少しハゲかかってるくらいストレスを感じているのに。
 
せめて先輩の言うように聞き流すことでストレスを軽減しようとしたが、とにかくあのババアは口が上手い。
的確にこっちがカチンと来ることを要所要所で言ってくる。
そして、質問するようなことを言ってくるので、こちらも気が抜けない。
 
これがSNSとかだったら誹謗中傷で訴えられるのに。
だから、一度、録音して上司に聞いてもらおうとした。
しかし、お客さんとの会話を録音するなんて、と激怒されてしまった。
 
しかもババアが言ってくるクレームも本当にくだらない。
というか、因縁でしかない。
 
ババアは左利きのようで、買うもの買うもの全てが使いづらいと言ってくるのだ。
それは右利き用だから仕方ないことだと、何百回も説明したが聞き入れてくれない。
左利き用のを買えと言っても、よくわからん、お前が買えと言う始末だ。
 
何度、知らねえよ、俺が作ってんじゃねえよ、と言いたくなったことか。
そのたびに手を握り締めて耐え続けた。
 
今では手のひらに爪の痕でできた生傷が無数に出来ている。
 
最近では夢にまで見るようになってしまった。
こっちとしては一日中、ババアの苦情を聞いているような感覚だ。
 
もちろん、何度も辞めようと考えた。
だが、あのババアのせいで仕事を失うのも、あのババアが俺がいなくなったことで喜ぶ顔を想像すると、絶対に辞めたくないという思いになる。
 
そして、今日もババアがクレームを言いにやってきた。
今日は買ったハサミが使いづらいとのことだ。
当然、右利き用だから使いづらいのは当然で、そのことを言ったら、火が付いたように文句をまき散らしてきた。
 
俺を罵るババアを見ていたら、なんだか虚しくなってきた。
そこで俺は「じゃあ、なんとかしてあげますよ」と言ってしまった。
 
するとババアは鬼の首を取ったかのような笑みを浮かべて、面白い、やってみろと挑発してきた。
 
次の休みの日。
俺はババアの家に行った。
鉄を切断できるノコギリを持って。
 
その日以降、ババアがクレームに来ることはなくなったらしい。
今ではちゃんと、右手用の器具を使うようになったようだ。
 
終わり。

解説

語り部はのこぎりでOの利き腕である「左手」を切り落とした。
なので右手用の器具を使うようになった。
また、語り部は最後、「らしい」や「ようだ」という表現で、他人事のように言っている。
語り部は傷害により捕まっている可能性が高い。

 

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