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母の手紙

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本編

俺のお母さんは俺が5歳の頃に病気で死んでしまった。
そのせいか、俺はお母さんの記憶がほとんどない。
 
でも、お母さんはそんな俺に対して手紙を残してくれた。
15年分の手紙を書いて、タイムカプセル郵便として預けているのだという。
毎年、俺の誕生日にお母さんが書いていた手紙が届く。
 
「7歳の誕生日と小学校入学おめでとう。友達はたくさんできたかな?」
「13歳の誕生日と中学校入学おめでとう。中学生になったんだから、これからはちゃんとお父さんの手伝いもやってね」
 
まるで見透かされたかのような手紙の内容。
俺はお母さんのことはあんまり覚えていないけど、お母さんは俺のことをしっかり見てたんだなって思う。
 
この手紙のおかげで俺は寂しい気持ちもいくぶんは薄れている。
まるでお母さんが近くに入れるような、そんな気がするのだ。
お母さんはズボラな俺を注意し、応援してくれる。
高校入学の時なんか、こんな手紙の内容だった。
 
「お誕生日おめでとう。高校は第一志望は落ちちゃっても気にしないで。入った高校でしっかり頑張ればいいんだからね」
 
いや、参った。
まさか、第一志望の高校を落ちることすら予見されてたとは。
高校受験の時は少し油断したというのがあった。
いわゆる勉強不足。
落ちてしまうのもしょうがない。
でもお母さんの言う通り、ここは腐らずに頑張ろう。
 
俺は心を入れ替え高校では、自分でもよくやったと思えるほど頑張った。
そのおかげで、無事に大学にも入学できたのだ。
 
「大学入学と成人おめでとう。お母さんのいうことを少しはきいてくれたのかな?」
 
本当にお母さんには感謝している。
この手紙がなければ、俺はとっくの昔に、堕落した人間になっていただろう。
 
しかし、そんな手紙も、俺が成人する20歳で終わってしまう。
それが凄く寂しい。
 
「20歳の誕生日おめでとう。もう立派な大人だね。これからはもうお母さんが注意しなくても大丈夫。でもね、これだけは忘れないで。手紙は今年で終わりだけど、これからもずっとお母さんはあなたのことを見てるからね」
 
涙が止まらなかった。
本当はもっともっと手紙が欲しかった。
でも、いつまでもそんなんじゃ天国のお母さんに心配をかけてしまう。
 
お母さんの言う通り、俺はもう大人だ。
お母さんを心配させないように、これからもしっかり生きていこうと心に誓った。
 
終わり。

■解説

母親が亡くなったのは、20年前。
それなのに、18歳のときの手紙には「成人おめでとう」と書いてある。
母親が亡くなった際には20歳が成人のはずである。
この母親は何か未来予知のような力があったのかもしれない。

 

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