本編
あいつは組織を裏切った。
確かに時々、組織のやることで一線を越えることはある。
それに対して、不満を抱いている組員も少なくない。
だが、だからといって裏切るのは完全にアウトだ。
あいつだって、組織のおかげで救われたことがあった。
かなり苦労はするが、ちゃんと筋を通せば、組を抜けることだって可能だ。
なのに、あいつは裏切った。
許されることじゃない。
あいつとは親友だが、弁護のしようがない状態だ。
当然のことだが、あいつを捕まえろという命令がきた。
最初は、あいつのことを逃がしてやろうかと考えた。
だが、それだと、あいつはずっと組織のことを気にしながら生きなければならない。
だから、俺は組織にある約束を取り付けた。
あいつを差し出し、ちゃんとケジメを取らせるので、あいつを俺のところに戻して欲しいと。
最初、組織は難色を示したが、俺の約束は聞き入れてくれることになった。
さっそく俺はあいつを説得し、組織の元へ行かせた。
おそらくは袋叩きにあうだろう。
だが、これから怯えて過ごすよりはずっといいはずだ。
数時間後、組織から連絡がきた。
あいつを引き取りに来い、と。
俺は言う通り、あいつを引き取りに行った。
俺の車にあいつが乗せられる。
そして、組織の幹部が助手席に乗った。
その幹部から山へ行くように指示をされる
訳がわからなかったが、俺は言う通りに山へと向かった。
終わり。
■解説
組織は語り部に返すという約束はしたが、「生きて」返すとは約束していない。
つまり、語り部の車に乗せられたのは「死体」だと考えられる。
また、約束は「語り部に返す」というものである。
それなのに、山に向かわせるのはなぜか。
それは「返した後」、一緒に埋めるためなのかもしれない。