本編
異世界転生。
少し前に、ラノベ界隈で流行ったジャンルだ。
異世界転生ものの特徴としては、転生する際に強力なスキルを与えられ、転生先の世界で最強状態でスタートできるというものらしい。
俺はあまりラノベを読んだりはしないが、そんな俺でも内容を知っているくらい、流行ったのだ。
とはいえ、そんなものは創作の世界だけの話だ。
人は死ねば終わり。
そんなのは子供だって知っていることだ。
もちろん、俺もそう思っていた。
しかし――。
俺は28歳の頃、泥酔した男が運転する車に突っ込まれて、即死した。
死ねば意識が途切れるものだと思っていたのだが、俺の意識が続いていた。
真っ白い世界の中に、ぽつんと俺だけが取り残されている。
そんな中、現れたのが禍々しい姿をした悪魔だった。
こんなときは、普通、天使や女神じゃないのかと思ったが、そんなのはどうでもよかった。
呆然とする俺に、その悪魔がこう言った。
お前を助けてやる、と。
なんでも、俺の祖先が悪魔と契約をして、子孫が絶えないようにお願いしたのだという。
俺は一人っ子で、結婚をしていない。
もちろん、子供もいない。
なので、ここで俺が死んでしまうと契約が果たせないのだそうだ。
ということで、俺は生き返ることとなった。
その際、悪魔は俺に『復活スキル』を付与してきた。
それは、今回のように事故で死んでしまった時に数時間前に戻り自動的にやり直すことができるというものだ。
確かにこれは便利だった。
このスキルのおかげで不慮の事故で死ぬことはなくなった。
乗り物による事故も回避できるし、通り魔に刺されたとしても大丈夫だ。
なにより、この復活スキルを駆使すれば金儲けだってできる。
例えば、競馬やパチンコなどのかけ事でも、負ければ自分で命を絶ってやり直せばいい。
このおかげで俺は莫大な財産をえることができた。
本当に便利なスキルを貰ったものだ。
さすがに異世界に転生することはなかったが、現代でも最強を堪能できるようになった。
悪魔様様だな。
終わり。
■解説
死んだ際に数時間戻るので、事故や自ら命を絶った際には役に立つスキルである。
しかし、病死や老衰の場合はどうだろうか?
数時間戻ったところでどうにもならない。
つまり、語り部は死ぬことができず、永久に死に続けることになる。