■本編
彼女が死んだ。
俺を庇ったせいで。
1ヶ月前、山道を歩いていたところ、上から落石があって、咄嗟に彼女は俺を突き飛ばし、自分は落石に潰されてしまったのだ。
俺は本当に彼女が好きだった。
彼女が死んでからは俺の心には大きな穴が開いたような感じがする。
こんなことなら、俺が彼女を庇って死にたかった。
そんなことを考えながら、俺は事故に遭った場所に向かう。
ここにくれば、また、彼女に会えるような気がしたから。
その予感は当たっていた。
「……こっちに来ちゃダメだからね」
俺の前に彼女が現れた。
俺は嬉しかった。
例え、幽霊でももう一度、彼女に会えたことに。
「動かないで。こっちに来ちゃダメ」
彼女には、俺が自殺しようか迷っていることがバレていたのかもしれない。
彼女は必死に、こっちに来るなと言ってくれている。
それでも俺は彼女と一緒にいたい。
例えそれが彼女の望まないことだったとしても。
俺は彼女が立っているところへ歩く。
「連れて行ってくれ」
俺がそう言うと、彼女は「バカ……」とつぶやいて消えてしまった。
すると、後ろでドンと大きな音がした。
振り向くと、そこには落石が落ちていた。
彼女に会わなければ、俺はあの石に当たって死んでいたはずだ。
彼女は俺に生きろと言ってくれている。
俺は悲しいけど、これからも生きていくことを心に誓った。
終わり。
■解説
彼女は「動かないで」と言っている。
つまり、語り部に落石を当てようとしていることになる。
彼女は語り部に死んでほしかったのかもしれない。