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森の中の井戸

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■本編

私が通っている高校の裏にちょっとした森がある。
その森の中には古い井戸が残っていて、その井戸には女の霊が出るという噂があった。
 
そして、その井戸は学生の中で『縁結びの井戸』と呼ばれている。
なんで、霊が出るような物騒な井戸が、縁結びの井戸なんて名前で呼ばれるかというと、肝試しに行った男女が、その後、付き合うことが多いという噂があるからだ。
 
それはきっと、霊が気を利かせてそういうことをしているのではなく、単なる肝試しの怖さによるつり橋効果なのだろうと、みんな言っている。
 
それでも、やっぱり、不思議な力にあやかりたいと思うのは乙女心というものだろう。
特に恋愛に絡むことなら尚更だ。
 
夏休みになると、クラスで恒例の肝試し大会が開かれる。
クラスのほとんどが集まるので、片思いの男の子と仲良くなる絶好の機会なのだ。
 
クジでカップルを決め、順番に肝試しに行く。
私は幸運なことに、Yくんと一緒になった。
 
私は内心、ガッツポーズを決めた。
ここで仲良くなれれば、夏祭りにも誘える。
上手くいけば、夏休み中に付き合うまで進むこともできるかもしれない。
 
そんなことを考えていると、私たちの番になった。
 
「幽霊なんて、嘘くさいよなー」
 
隣を歩くYくんが手を頭の後ろで組みながら気の抜けたことを言う。
そんなYくんの雰囲気のせいで、すっかり怖い雰囲気がなくなってしまった。
 
私はYくんと他愛のない話をしながら進んでいく。
 
これはこれでいいなと、私は思った。
 
だけど、こんな和やかな雰囲気は一気に吹き飛んでしまう。
 
それはちょうど、井戸に着いた時だった。
突然、井戸の中からぬーっと白い腕が出てくる。
そして――。
 
「たすけて……」
 
確かに女の声だった。
私とYくんは叫び声をあげて、その場から走り出した。
 
まさか、本当に出るなんて!
 
私の頭は真っ白になった。
全速力で走っていると、突然、隣のYくんが立ち止まった。
 
「……Yくん? どうしたの?」
「さっきの声さ、Tさんじゃない?」
「え?」
 
Tというのは、クラスでも人気のある女の子で、私たちより前に出発している。
 
「絶対、Tさんだよ! きっと井戸に落ちて助けを求めてたんだ!」
 
Yくんはそう言うと、井戸の方に走って戻っていってしまった。
だけど、正直、私は戻る気力はなくなっていた。
 
霊かもしれない井戸に戻って助けたいってほどTさんと仲いいわけじゃない。
それに、YくんはTさんのことが好きだってわかってしまったというのが大きい。
 
私はトボトボと歩いて、みんなの元に帰った。
するとなんだか、みんなが騒いでいる。
とりあえず、私は井戸でのことをみんなに話すと、「やっぱりか」という反応が返って来る。
 
どういうことかと聞くと、私たちの前に出発した人も、やっぱり同じように井戸の中から霊が出たと言って戻ってきたらしい。
 
当然ながら、肝試しは中止になった。
 
気になったのはTさんが青い顔をしてガタガタと震えていたことだ。
いつも「霊なんていない」と霊をバカにしていたような発言をしていたのに。
 
私は心の中で、ほんの少し、ざまあみろと思ってしまったのだった。
 
終わり。

■解説

Tは語り部が戻って来るより先に、既に戻ってきている。
ということは、井戸の中にTが落ちたというYの予想は外れていたことになる。
では、一体、井戸から聞こえた女の声は何者だったのだろうか。
そして、再び井戸に戻っていったYはどうなってしまったのであろうか。

 

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