■本編
家族がマイホームが欲しいと言うので、私は多少無理をして郊外に家を購入した。
私自身も自分の家が欲しかったので、文句を言うつもりはないがマイホームから会社に行くまで電車で片道2時間がかかってしまう。
10時に会社が終わっても、家に着くころには12時を過ぎてしまうのだ。
何とかならないだろうかと思いながらも、毎日電車に乗り続けて、もう2年は経っている。
私が降りる駅は郊外で本当に降りる人が少なく、大体、3人程度だ。
というより、私が降りる駅まで乗っている人数は大体8人ほど。
毎日顔を合わせるメンツなので、もう顔を覚えてしまった。
おそらく、あっちも私の顔を覚えてしまっているだろう。
唯一の得と言えば必ず座れるというところだろうか。
これが座れもせずに2時間となると相当辛いだろう。
今日は新入社員の歓迎会ということで、つい飲み過ぎてしまった。
いつもの席に座り、背もたれに寄り掛かる。
するといつの間にか、私は眠ってしまっていた。
2時間というのは待つのは長いが、寝るとなると短い。
熟睡したところを、肩を揺さぶられる。
目を開けるとそこには見覚えのない男が立っていた。
私は「終電か!?」と思った。
一気に目が覚める。
すると、ちょうど私が降りる駅に着き、ドアが開いた。
「危なかったですね」
私を起こしてくれた男がほほ笑みながらそう言った。
「ありがとうございました。助かりました」
私は立ち上がり、礼を言って、電車を降りた。
終わり。
■解説
語り部は乗っている乗客は覚えていると言っている。
だが、起こされた時、語り部は「見覚えのない」と言っている。
では、なぜ、語り部を起こした男は語り部が降りる駅を知っていたのだろうか。