■本編
オタクって、本当に面倒くさい。
変なこだわりを持ってるやつが多いよな。
俺がバイトをしているファミレスにも、オタクの常連がやってくる。
そいつはいつもデカい人形を持ってくるのだ。
そして、自分の席の向かに座らせる。
その人形に向かって独り言を話すという変わり者。
こいつの面倒くさいところは、その人形を人形扱いしたら怒るというところだ。
例えば、そいつはいつも2人分の料理を頼むのだが、2つとも、そいつの前に置くと怒る。
「それは彼女が頼んだ料理だ!」
こう言ってキレ出す。
つまり、人形も人間扱いしないとならない。
来店したときも、こっちが「1人様ですか?」と尋ねると、当然キレる。
「目ん玉、付いてないのか? 彼女がいるだろ!」
店内中に聞こえるくらい大声でそんなことを言い出すのだ。
俺は店長に、そいつを出禁にしていいかと頼んだが、いつも料理を2人分頼むという太客ということで、出禁にはできない。
しかたなく、こっちがそいつに合わせるしかないのだ。
休憩時間が終わり、ホールに出ると、ちょうどそいつが席に案内されていた。
案内したのは、昨日入った新人だ。
だから俺は「あそこには俺が水を持って行く」と言って、接客を変わる。
後であのオタクのことを説明しなくてはならないな、と思いながら俺は水を2つ用意して席に向かう。
そいつの、今日の彼女は長い髪のデカいワンピース姿の女だった。
毎回、コロコロと連れてくる人形……彼女を変えてくるのが、またウザい。
一体、何体持ってるんだよ。
俺はそいつと、女の人形の前に水を置く。
「え?」
そいつは目を丸くする。
「ご注文が決まりましたら、お呼びください」
俺は丁寧に、そいつと女の人形に頭を下げる。
すると――。
「うわああああああああああああああああああ!」
そいつは大声を上げて、店を飛び出していった。
なんなんだよ! 一体!
ちゃんと、人扱いしてやったろうが!
俺はムカつきながら、水を回収する。
「……あれ?」
そのとき、俺は人形がいないことに気づく。
確か、さっきは手ぶらで店を出て行ったのに。
終わり。
■解説
それは人形ではなく、女の幽霊。
オタクの男は1人で来たはずなのに、2人分の対応をされて驚いて逃げていったわけである。
オタクの男は幽霊にとり憑かれていて、さらに、それを自覚しているようだ。