■本編
夫は酷いDV男だった。
何か気に入らないことがあれば、暴言はもちろん、暴力も振るわれた。
怯える毎日。
私の中で、ある日、突然限界がやってきた。
私は着の身着のまま家を出た。
とにかく夫から離れ、普通の生活を送りたかった。
手持ちのお金を使い、遠くに逃げた。
夫に見つかることがないように。
正直、野垂れ死ぬことも覚悟していたが、幸運なことにすぐに住み込みの仕事が見つかり、私はようやく普通の暮らしを手に入れる。
それから3年が経った頃、私は色々と相談に乗ってくれた男性からプロポーズされた。
私はその人に、籍は入れられないと告げた。
どうしても元夫に居場所を知られたくなかったのだ。
だがその人は快く受け入れてくれた。
私たちは同棲するようになり、すぐに私は身ごもり、子供を産んだ。
幸せ過ぎて怖いほどだ。
その人は不安がる私に、「今まで不幸だった分が返ってきてるだけだよ」と言ってくれた。
家族のためにも、過去のことは忘れて前を向いて進んでいこう。
そう思った矢先だった。
私は仕事の関係で、外回りをしているときに偶然、元夫と再会した。
昔の光景がフラッシュバックして、パニックになるところだった。
すると元夫は深々と私に対して頭を下げてくる。
「昔のことは本当にすまなかった。俺はもう、君たち家族の邪魔をする気はないんだ」
そう言った。
今回も私を探したのではなく、本当に偶然だったらしい。
そして、元夫は左手の薬指の指輪を見せてくる。
「俺、結婚してるし」
そう言って、照れくさそうに笑った。
よかった。
これでもう何一つ心配事はない。
これから私は新しい家族と共に幸せになるため、頑張っていこう。
終わり。
■解説
元夫は語り部を探す気はなかった(偶然会った)と言っているのに、なぜ語り部に『家族がいること』を知っているのか。
また、語り部と元夫は離婚ができていないはずである。
それなのに、元夫は「結婚している」と言っている。
このことから、元夫は語り部のことを『調べている』可能性が高いし、「結婚している」というのは語り部とのことを指している(まだお互い夫婦だと言っている)ように思える。
つまり、元夫は語り部に『執着』していて、これから語り部を取り返すため、何かをする可能性が高い。