■本編
今まで仕事ばかりで恋人はおろか出会いさえなかった。
だから、ものは試しということで、マッチングアプリを始めてみた。
それで今、一人の女の人とやり取りをしている。
彼女のプロフィールの写真は若くて、可愛くて、正直やり取りできていることさえ奇跡のようなものだ。
やり取りを始めて2週間が過ぎたのだが、そろそろ会いたいと思っている。
だけど、こういうのはガツガツ行くと、嫌われると聞いた。
だから、自然に会うように誘導しないと。
そこで俺は相手を少しだけ怖がらせることにした。
『そういえば、また、強盗殺人があったの知ってる?』
『うん。ニュース見たよ。怖いよね』
『一人暮らしの女の子とか、危ないんじゃない?』
『やっぱり、そうかな?』
よし、これで、恋人ができれば防犯にもなるんじゃないかっていう感じで誘導しよう。
そう思っていたら。
『でもさ、強盗って頭悪いよね』
意外な方向の返事が来た。
『どういうこと?』
『だってさ、人を殺したら、罪が重くなるでしょ?』
『まあ、そうだね』
『そんさ、家に誰もいないときに行けば、殺さなくてもいいわけだよね』
『確かにそうだけど、いつ、その家が留守になるなんてわからなくない?』
『あ、そっか』
なんだか、抜けた子だ。
でも、そういうところが可愛いと思う。
『でもさ、やっぱり一人だと怖くなっちゃった』
お、来た来た。
それじゃ、さっき考えた方向で返してみよう。
『彼氏がいれば防犯になるんじゃないかな?』
『そっか。そうだよね。じゃあさ、会ってみる?』
『うん。会ってみようよ』
よしよしよし、これだ!
これで会えるぞ。
『でもさ、ちょっといきなり私の家を教えるのは怖いから、そっちの家で会えない?』
本当に抜けた子だ。
いきなり男の家に行く方がよっぽど怖いと思うんだが。
まあ、別に俺は何もしないけど。
『いいよ。じゃあ、家の中を掃除しておかないと』
『あははは。それじゃ、住所を教えてくれるかな?』
俺は彼女に家の住所を教え、会う日時を決めた。
そして当日。
約束の時間になり、そわそわしてると、彼女から連絡がきた。
『迷ったから、駅まで迎えに来てくれない?』
『いいよ。今、行くから待ってて』
そういうところも可愛いと思って、俺は駅に向かった。
だが、駅にそれらしき子がいない。
駅の中を探し回って、彼女に連絡をしてみたが、返事も来なかった。
そして、1時間が過ぎた。
返事も帰って来ないので、俺はやっぱり騙されたのかと思って、イライラして家に帰った。
家の中に帰って、俺は「そういうことか」と納得した。
終わり。
■解説
やり取りしていた相手は空き巣犯。
語り部の家の住所を手に入れた後、家を留守にさせている間に空き巣に入った。
つまり、語り部が家に戻ると、家が荒らされていたわけである。