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本編
大学の先輩から、バイトをしないかと声をかけられた。
内容はある大人気のゲームをプレイするといったものらしい。
たぶん、ゲームのテストプレイか何かだろう。
報酬は3日間で3万円。
つまり1日で1万だ。
パッと聞いたときは割りが良さそうだと思ったけど、1日、12時間以上はプレイをやることになるから、時給にすると結構低かったりする。
だけど、作業内容によっては追加で報奨金が出るらしい。
しかも、その金額は結構高いようで、大体の参加者はその金額に驚くという話だ。
きっとそのゲームに関しての改善案とかを出すとかバグをたくさん見つけるともらえるのだろう。
ゲーム会社に勤めている知り合いから、バイトのデバッカーの質が低いと言う愚痴を聞いたことがある。
こんなふうに出来高にすることで、バイトのやる気を高めて質を高くしようという意図があるのかもしれない。
さらに先輩は、ゲーム好きで一人暮らしをしていて他にバイトをしていない人を探していて、それにピッタリと合うのが俺しかいなかったらしい。
だから、是非とも受けて欲しいと頼まれた。
ゲーム好きで欲しいゲームもあった俺はそのバイトを受けることにした。
当日。
集合場所には20人ほどの人たちが集まっていた。
しかも男女はもちろん、年齢の幅もかなり広かった。
高校生くらいの人もいれば、60歳くらいの人もいる。
そんな中で共通しているのが、みんなゲーム好きというところだ。
それはそうだろう。
3日間、缶詰でゲームをするというのだから、ゲーム好き以外はやろうとは思わないだろう。
他の参加者と雑談をしていると、バスがやってきた。
これから現場に向かうのだという。
バスに乗ると、すぐに窓がカーテンで仕切られた。
なんだろう?と思って警戒したが、すぐに車内のモニターに映画が流れ始める。
どうやら、参加者たちが暇にならないための配慮だろう。
映画自体は興味がなかったが、その配慮が結構、嬉しかった。
これならきっと現場でも快適に過ごせそうだ。
ゲーム好きは結構、陰キャと思われがちだが、中にはちゃんと陽キャのゲーム好きもいる。
俺もどちらかというと陽キャの方だ。
参加者の席を回って、色々と話をしてみる。
3日間とはいえ、一緒にゲームをする仲間だ。
中には話して欲しくないっていう陰キャもいたけど、大体の人に話しかけることができた。
ただ、その中で気になった点があった。
1つは誰も「何のゲーム」をするのか知らないこと。
そういえば、俺も聞いていない。
タイトルはおろか、どんなゲームかさえも。
ただ、これはそのゲームがリリース前だとすれば納得できる。
リリース前のテストプレイであれば、情報が外に漏れないようにするのは当然だ。
そしてもう1つの方は、ちょっとだけモヤモヤした話だった。
それはこのバイトは定期的に行われるというものだ。
前に何回か誘われた時があり、そのときは都合が悪くて断ったが、今回ようやく参加できると話している人がいた。
別に定期的に行うというのは別に変じゃない。
俺が気になったのは定期的に行われるはずなのに「経験者が1人もいない」ということだ。
先輩は「作業内容によっては追加で報奨金が出る」と言っていた。
その金額は参加者がビックリするくらい高いとも。
なら、1回参加した人なら、またやりたいと思うのではないだろうか。
それに会社の方からしても、未経験よりも経験者の方が手慣れている分、扱いやすいはずだ。
そんなことをモヤモヤと考えているとバスが停車した。
どうやら目的地に着いたようだ。
時計を見ると3時間が過ぎている。
随分と遠いところでやるんだな。
そう思いながら、俺たちはバスを降りた。
大人気のゲームに胸を膨らませながら。
終わり。
■解説
語り部たちがこれからやるゲームに関して、もし、リリースしていないゲームであるなら『大人気』というのはおかしい。
そして、リリース後のゲームであるなら、ゲームの名前を隠すことがおかしいし、そもそもデバックのために大勢の人間を3日間という短い期間で雇うというのも変である。
また、3時間もバスを走らせるというのも変である。
参加者によっては近い人間もいるはずなのに、全員を一つの場所に集めてから移動するというのも怪しい。
また、バスは移動の際にカーテンを閉め切って、外を見せないようにしている。
さらに、ゲームの内容で報奨金を出し、その金額が、参加者が驚くほどというのも、バイトの仕事としては曖昧過ぎる。
最後に、探している人の条件に「一人暮らし」というのも、かなり怪しい。
以上のことから、参加者がやることになるのは『デスゲーム』で、生き残った人間に賞金が貰えるということが考えられる。
その賞金が驚くほど高いと言うのも納得できる。
また、「経験者がいない」というのも、ゲームの内容がデスゲームであるなら、当然である。
高い金を貰えると言っても、殺し合いにもう一度参加したいと思う人間は少ないだろう。
そして、『大人気のゲーム』というのは、客に対して大人気ではなく、『主催者側』に大人気のゲームであると推測される。