本編
彼女は小さい頃に事故に遭い、それからはずっと車椅子の生活なのだという。
そんな彼女はとても美人で気立てがいいのだが、どこか気難しいところがある。
何かのスイッチが入るとヒステリーになり、自傷をしたりすることもあるのだ。
俺の周りの友達からは「なんか怖い」と敬遠されがちだが、俺はそんなことを思ったことない。
彼女のことを愛しているのだ。
もちろん、いつかは結婚したいとも思っている。
だけれど、周りは何かと反対してくる。
彼女が日本人で国籍が違うということも手伝って、応援してくれる人は少ない。
しかも、彼女には黒い噂があるのだという。
それは一緒に暮らした人が自殺をするというものらしい。
もちろん、俺は信じていないし、もし本当だったとしても、別に彼女が悪いわけじゃない。
俺は自殺なんてしないし、彼女のことを信じている。
周りから何かと反対される中、俺は彼女と付き合い続ける。
そして、彼女の誕生日が目前に迫った。
何をプレゼントしようか。
彼女はあまり指輪とかネックレスとか、そういうアクセサリーには興味がない。
そこで、俺は靴をプレゼントすることにした。
彼女は日本人ということもあり、家の中では靴を履かないのだ。
そのせいで、彼女の足はよく汚れている。
だから、プレゼントをすることで、家でも靴を履く習慣が身についてくれればなって思う。
誕生日の日に、俺はおしゃれな靴を彼女にプレゼントした。
彼女はとても喜んでいた。
だけど、一向に履こうとしない。
なぜだろうと思い問いかけても、「やっぱり慣れないから」と断るのだ。
せっかくプレゼントしたんだからというと、彼女は癇癪を起してしまった。
暴れたり、手首を切ったり、睡眠薬を飲んだりと大慌てだ。
かなりビックリしたけど、それでも俺の彼女への想いは変わらない。
刃物や睡眠薬なんかは、彼女の手の届かないところへ置く。
これで安心だ。
でもまだまだ精神的に安定してないから、彼女の家に泊まり込みで介護をしている。
早く前みたいに気立てのいい彼女に戻ってくれるといいんだけど。
終わり。
■解説
彼女は車椅子で生活しているのに、なぜ、「足が汚れることがる」のか。
そして、彼女には同棲している男性が自殺をするという黒い噂がある。
もしかすると、彼女は車椅子に乗っているが、実は立ち上がれるのではないか。
そのため、語り部が見ていないところで立って歩き、足が汚れてしまうのではないだろうか。
頑なに靴を履こうとしないことも、靴の裏がすり減ることを危惧しているのかもしれない。
さらに語り部は睡眠薬を彼女の手の届かない高い場所に置いている。
しかし、彼女が立ち上がれるのなら、それは全く意味がないと言える。
もし、彼女が語り部を睡眠薬で殺し、元の場所に戻したとしたなら、警察は自殺と判断するのではないだろうか。
癇癪を起している彼女に、語り部は命を狙われているのかもしれない。