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本編
俺は交番のお巡りさんだ。
大人からはあまりよく思われないこともあるが、そんなことは関係ない。
俺は俺の正義を貫く。
町の人々からどんなふうに思われても、俺は町の人たちの味方でいるつもりだ。
だから、どんな小さなことでも、どんなに遅い時間でも、相談があれば全力で対処する。
そうしていると、最近、町の中の治安が悪いことに気づく。
通報するかどうか迷うような小さい悪事が結構、増えてきているのだ。
これはどんな小さな相談でも対処した結果だと、自負している。
そのことに気づいているのは、警察の中でも俺くらいだろう。
その原因というのが、他の町から入ってきた人間が問題を起こしている。
町の中を見ていると、見たことのない人間が確かに増えてきている印象だ。
元々は治安がよかった町が、外から来た人間がかき乱していく。
それが我慢ならない。
だから、俺は職質を強化することにした。
見たことのない人間を見つけては、職質をする。
そして、身分証明書を見せて欲しいというと、逃げ出す者が多数だ。
大体、こういうと、後ろめたいことがあるやつは挙動不審になる。
で、取り調べをすれば何かしら犯罪行為をしているがわかる。
まさに、身分証明書は踏み絵みたいなものだ。
今日も俺は怪しそうな男に職質する。
いつも通りに身分証明書を見せて欲しいと言ってみる。
するとその男はすんなりと保険証を出してきた。
見てみると男は26歳でこの辺りに住んでいることがわかる。
少し話を聞いてみると、その男は昔からずっとこの辺りに住んでいるのだという。
俺は安心して、身分証明書を返す。
動揺もしなかったし、なによりここの住人だということは信用できるということだ。
俺は協力ありがとうございましたと言って、その男を見送った。
そして、1週間後。
管轄内で一人の男の死体が見つかった。
身分を証明するものは持っていなかったが、俺はその男に見覚えがあった。
そこで聞き込みをしたところ、男はこの辺りに住んでいた26歳であることがわかる。
どうせ、よそ者の犯行だろう。
俺は絶対に、犯人を捕まえてみせると、被害者の男に誓った。
終わり。
■解説
語り部は見たことがなくて怪しいと思った人間に職質をしている。
ということは、最後に職質した男は、見たことがないので職質したということである。
それなのに、職質された男は昔からこの街に住んでいると言っている。
そして、殺された男に関して、語り部は「見たことがある」と言っている。
昔からこの街に住み、職質した男と同じ26歳だ。
つまり、職質した男は、男を殺して身分証明書を奪った可能性がある。
語り部は身分証明書が偽物かもしれないという考えがなく、犯人を取り逃してしまったのかもしれない。
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