本編
かなり昔にカラーひよこっていうのが流行ってたのを知ってる?
私もお母さんから、そんなのがあったと話だけ聞いてただけで、実際には見たことがなかった。
でも、この前のお祭りの屋台の端っこにカラーひよこを売ってるところがあったんだよね。
それを見て、息子が欲しがってさ。
私も物珍しさに欲しいって思っちゃって。
ただ、普通に買うのもなんだから、息子に「好き嫌いを止めるなら買ってあげる」って条件を出したの。
うちの息子は6歳にしては、すごい好き嫌いがあって困ってたから、ちょうどよかったんだよね。
息子は少し悩んだ後に「好き嫌いはやめる」と約束してくれた。
約束通り、息子はあれほど嫌いだった卵を我慢して食べるようになってくれた。
というのも、私が「ひよこが大きくなったら、ニワトリになって、そのニワトリが生んだのが卵なんだよ」と言ったら興味を持ったというわけだ。
息子は「ぴよちゃんが生んだ卵を食べるんだ」とはしゃいでいる。
まあ、屋台で売られるひよこは大体がオスらしいんだけど。
そこはまだ内緒にしておこうと思う。
せっかく興味を持ってくれたんだし。
そんなある日、息子がこんなことを言った。
「親子丼が食べたい」
すごく嬉しかった。
息子が卵嫌いだったから、うちでは親子丼なんて作ったことがなかった。
それに、息子は卵が食べられるようになったと言っても、我慢して食べるっていう感じだ。
自分から「食べたい」なんてことを言ったのは初めてだったから、凄く嬉しかったのだ。
だけど、最近、鳥インフルエンザが流行ったとかなんとかで、卵がかなり値上がりしてる。
それもあって、卵自体はあまり買ってなかったんだけど、息子が食べたいというなら、高くても買うしかない。
そう思ってお店に行ったんだけど……。
やられた。
卵自体がない。
いつもは高いのが残っているのに、今日はその高いのさえ残っていない。
どうしよう。
息子には今日、親子丼にすると約束してある。
息子はちゃんと好き嫌いをしないという約束を守ってくれたから、どうしても今日の約束は守ってあげたい。
何軒かお店を回ったけど、どうしても見つけることができなかった。
こうなったら奥の手を使うしかない。
その日の夜。
私はなんとか親子丼を作って出した。
息子は喜んで食べていた。
夫の方は首を傾げてたけど。
とにかく、今日は約束を守れて、本当によかった。
終わり。
■解説
語り部の夫が首を傾げていたということは、普通の親子丼ではない。
そして、語り部は卵を買うことができなかった。
しかし、語り部は『親子丼を作った』と言っている。
鶏肉とひよこの肉を使っても『親子』丼になる。
つまり、語り部は息子に買ってあげたひよこの肉を使って親子丼を作った。