本編
男は高校を卒業してから20年間、ずっと引きこもりをしていた。
働けと言った際に暴力を振るい、暴れまわったことで両親も、男のことは諦めている。
最低限の食事と、月1万円の小遣いだけを渡して、両親は男を見て見ぬ振りを決め込んでいた。
だが、そんなある日。
男の両親が事故で亡くなってしまう。
数年は両親が残した遺産で食いつないでいたが、両親がいなくなったことで歯止めをかける者がいなくなり、男は散財した。
お金がなくなり、完全に追い詰められた男は闇サイトで、ある賭け事をしているのを見つけた。
ロシアンルーレット。
銃を順番に引き金を引いていき、弾が出た方が負けという賭け事である。
勝てば3億円という破格の値段だ。
だが、参加費は5000万円かかるのだという。
男は考えた。
負ければどうせ死ぬんだから、と。
5000万を借金し、男はロシアンルーレットに参加した。
ロシアンルーレットは1対1で行うもので、7発入りのリボルバーに1発だけ弾が入っている。
それを交互に、自分のこめかみに当てて引き金を引く。
男と対戦相手はテーブルを挟んで向かい合う。
そのテーブルの中央には銃が置いてあった。
だが、男にとって死というものはどこか他人事で、今もなんとなく自分が勝てると思っている。
だが、対戦相手はそれを見てか、薄く笑った。
「言っておくけど、これは現実ですよ」
対戦相手は中央のテーブルの銃を握ると、男に向って発砲した。
男の耳の横を弾が通過していく。
それを感じ、男の夢見心地な気分は一気に醒めた。
汗が大量に噴き出してくる。
男が「やっぱり止めたい」と言おうとした時だった。
対戦相手が自分のこめかみに銃を充てて引き金を引く。
カチン。
空砲の音が部屋に響く。
「次は貴方の番です」
銃を差し出される。
男は手に取った銃がかなり重いことに驚いた。
本物の銃というのはこんなに重い物なのか、と。
それがさらに、男に現実感を与えた。
男は震えながら自分のこめかみに銃を充てて、引き金を引いた。
カチン。
空砲だった。
安堵感が男を包む。
――しかし。
カチン。
またも対戦相手の銃は空砲だった。
カチン。
カチン。
お互い、空砲になり、再び男の番になる。
6発目。
ついに2分の1の確率になってしまった。
男は決死の思いで、銃をこめかみに当てる。
そして、引き金に指を当てた。
だが、そのとき、対戦相手が薄く笑いながらこう言った。
「いいんですか? 今なら、もう5000万払えば、賭けを降りることを許しますよ」
男は最初、何を言っているのか分からなかった。
2分の1の確率まで来た。
ここで弾が出なければ勝ちだ。
自分も対戦相手を追い詰めているはず。
そう思った時だった。
男はハッとする。
ゲームを開始する前に1発撃っていることに。
現在、6発まで撃っていることになるのだ。
つまり、2分の1の確率ではなく、100%弾が出ることになる。
男はうな垂れ、追加で5000万を払うことでロシアンルーレットから降りた。
死ぬよりはマシだと。
しかし、男はそもそも参加費の5000万を借金している。
追加で払えるわけがなかった。
そこで対戦相手は男を捕まえ、臓器を売り払った。
結局、男は賭けを降りても死んでしまったのである。
終わり。
■解説
引き金を引いても、賭けを降りても男は死ぬ運命だったように見える。
だが、それは違う。
なぜなら、このリボルバーは7発装弾できるタイプで、『1発』しか弾が入っていない。
そして、その1発は「男を脅すため」に撃ってしまっている。
つまり、男が引き金を引いても空砲だったわけである。
対戦相手は弾が出ないことを知った上で、賭けを続け、男にプレッシャーをかけて賭けを降ろそうとしていた。