本編
一昔前に本当に存在する呪いのビデオというのが流行った。
オカルト好きの私だが、その当時はそのビデオを見たことはなかった。
それも当然のことで、周りにそのビデオを持ってる人がいなかったからだ。
風の噂では、そのビデオには髪の長い女の人が映っていて、その女の人がドンドンと近づいてくるらしい。
そして、最終的にはその女の人が目の前に現れて、呪い殺されるのだという。
オカルト好きな私は、その話を聞いてげんなりした記憶がある。
なぜなら、ベタベタ過ぎて嘘くさかったからだ。
そんなの、よくある話だから、返って怖さを感じなかった。
だから、その当時も必死になってそのビデオを探そうとはしなかった。
呪いのビデオのことなんて忘れ去っていたとき、いきなり友達から呪いのビデオが手に入ったと連絡があった。
同じくオカルト好きな友達だ。
一緒に見ようと誘われたが、ビデオデッキなんかないと言ったら、今は呪いのDVDになったのだそうだ。
私は思わず笑ってしまった。
呪いも現代に合わせてアップデートされたのかと思うと、怖いどころか馬鹿々々しくなってしまったのだ。
私は友達の誘いを断った。
だが、次の日。
友達は一人でDVDを見たらしく、会ったとき、友達は青い顔をして「本物だった」と言い出した。
オカルト好きの友達が言うのなら、それなりに怖いのだと思い、私は友達からその呪いのDVDを借りた。
お酒を片手にさっそく視聴してみる。
映し出されたのは森の中。
すると遠くの方に髪の長い白いワンピースを着た女の人が佇んでいるのを見つけた。
しばらく、画面を見ているが、その女の人はピクリとも動かない。
私はため息をついてDVDを消した。
次の日、友達に全然、動かないじゃんと言うと、何回か見ないとダメなのだという。
本当に面倒くさい。
なんで、こっちが何度も見てあげないとならないのか。
仕方なく私は再びDVDを視聴した。
林の中。
女の人が遠くに映っている。
私はじーっとその女の人を見る。
だが、前回から動いているようには見えない。
それから、私は毎日そのDVDを見ることにした。
だが、一向に近づいてきているようには見えない。
まさか、毎回一歩ずつしか近づいて来ないのか?
そんなことを考えながら、DVDを見続けていた。
それでも女の人は動いているように見えない。
時々、女の人がどこにいるのかわかりづらいときもあったが、距離は変わっていない。
苛立った私は毎日、女の人の大きさを図るようになった。
だが、一向に大きくならない。
つまり、近づいてきていないということだ。
私は完全に女の人を見るのが上手くなっていて、例え人ごみの中にいてもすぐに見つけることができた。
周りは動いているのに、女の人だけは微動だにしない。
それが妙に滑稽に思えて、笑ってしまう。
だが、そんなある日、私はあることに気づいた。
というより、心臓が飛び上がるくらい驚いた。
なぜなら、そのDVDに私が横切ったのが映っていたからだ。
そして、私は気づいた。
そういうことだったのかと。
不意に後ろから気配がして、私は振り返った。
その瞬間、私の意識がなくなり、暗闇に包まれたのだった。
終わり。
■解説
女の人が近づいてくるというのは、DVDの画面から見ている方に近づいてくるというわけではない。
女の人が近づいてくるのは、『場所』である。
最初、DVDを見た時は『森』だったはずだが、次は『林』であり、中には『人ごみ』になっていたりした。
つまり、森から語り部が住む部屋へ『近づいていった』ということになる。
最後に語り部が横切ったのは、部屋に帰るときの姿である。
女の人は語り部の部屋に辿り着き、そして、語り部を呪い殺してしまった。