本編
これはあるローカル局のラジオを番組のお話。
その局の一番の人気はラジオドラマを放送する番組なんだ。
別に脚本家や声優も有名人を使っているってわけじゃない。
逆に無名って言ってもいいくらいの人たち。
俺も聞いていてクレジットが流れた時に、誰一人聞いたことのある人はいなかったくらい。
でも、だからって質の悪い物が出来上がるわけではない。
有名な作家や声優を使っても駄作が生まれてしまうようにね。
このラジオドラマ番組が凄いところは熱量だ。
なんていうかな。
本気で作ってるって感じ。
あー、いや、別に他の番組が不真面目に作ってるって言ってるわけじゃなくて……。
そう。命をかけてるって感じかな。
一言で言うと凄い。
……ごめん。語彙力がなくて。
実際にその局では亡くなった人もいるらしい。
過労死なのかな?
それでも、素晴らしい作品を作ろうって気持ちが伝わってくる。
とにかく、聞いているとまるでその場にいるような感覚を覚えるんだ。
自分も登場人物の一人になったような感覚。
だから、サスペンス物だと凄くドキドキするし、ホラーだと冷や汗をかくくらい怖い。
感動ものだと本気で泣くし、恋愛ものだと本気で応援してしまう。
やっぱり作家と声優がいいんだろう……なんて思っていたら違っていた。
スタッフのインタビュー記事に書いてあったんだけど、あの番組が一番こだわっているのは『効果音』なんだってさ。
いわゆるSEってやつ。
今の時代はパソコンで音を作るのが当たり前なんだけど、この番組のスタッフは昔ながらの物を使って効果音を作っているらしい。
その方が音に重みが出るのだとか。
たとえば、鳥が羽ばたく音に傘を使ったり、卵の殻を擦り潰すことで物を食べている音を作ったりと色々としているみたい。
それでも納得できない場合は、何度も音の収録を繰り返したり、最悪、本当にその場所に行って実際の音を撮ったりすることもあるらしい。
そのせいで、スケジュールがギリギリになってしまい、寝不足のスタッフも多いのだとか。
そりゃ、過労死する人も出るってものだ。
そんなハードスケジュールになっても、絶対に妥協はしないらしい。
どんなにギリギリになっても、音にはこだわるというのがポリシーと書いてあった。
効果音でここまでこだわるのだから、そりゃ、作家も声優も気合が入るというものだ。
死ぬ気で頑張るよね。
で、これはテレビ局にいる友人から聞いた話なんだけど、業界の中で、この局が作ったある効果音が有名らしい。
それは刀で人を斬る音。
かなりリアルで、今まで誰一人、この音を超えるものを作った人も再現できた人もいない。
昔の人はキャベツを包丁で切るときの音が、それに近いらしいんだけど、実際にその方法でやってみても、全然違うらしい。
俺はそのとき、「いやいやいや。なんで刀で人を斬った音を知ってるんだよ」と友人に突っ込んだ。
そしたらさ、オフレコっていうか誰にも言わないで欲しいって言われたんだけど、ネットで実際に人を斬り殺す動画があったみたいで、それを聞いたことがあるのとのことだった。
中には、その音を貰うためにわざわざ、その局に連絡してその効果音を貰っているところもあるらしい。
そのときに、「どうやって作ったんですか?」って聞く人もいたらしいんだけど、教えてくれないらしい。
でも、正直、聞く方からしてみればどうやって作ったなんか関係ない。
聞いていて凄いと思えるならそれでいいのだ。
さて、今日もその番組のラジオドラマが始まる。
俺はヘッドホンをして部屋の電気を消した。
終わり。
■解説
ラジオドラマを作成している番組スタッフからは死者が出ている。
語り部は過労死と言っているが、それは語り部の予想であって真偽はわからない。
そして、人を斬る音を作る際に、スタッフはどうしても納得が出来ず、実際に人を斬って収録した可能性が高い。
人を斬り殺した動画のように。
つまり、このような方法でスタッフが何人か死んでいるのである。