本編
妹が殺された。
妹は人当たりもよく、誰かに恨みを買うようなやつじゃなかった。
惨い殺害方法から、警察は怨恨ではなく快楽殺人だと判断したようだ。
だが俺は知っている。
妹をずっと付け回していた男を。
妹は気にしていなかったが、おそらくストーカーの類だろう。
もちろん、俺はそのことを警察に知らせた。
だが、警察はそのことを取り合ってくれなかった。
だから俺は自分で探すことにした。
その、妹を付け回していた男を。
一週間、駅で張り込みをしていた甲斐もあり、俺はその男を見つけることができた。
その男を観察していると、その男もどうやら人を探しているようだった。
というより、それは次の獲物を探しているような、そんな目付きだ。
男は目星をつけたのか、ある少女を尾行し始める。
その少女は妹と同じような年や背格好で、髪も艶のある黒で長い少女だ。
間違いない。あいつが妹を殺したんだ。
俺はすぐに理解した。
こうやって妹も、あいつに選ばれたのだと。
俺はその男を尾行し続けた。
男はやたらと周りを気にしていて、犯行を行う機会をうかがっているようだった。
絶対にあいつを捕まえてみせる。
その思いだけが俺を支えていた。
だが、事件は思わぬ方向へと動いた。
なんと、新たに少女が殺害されたのだ。
被害者はやはり妹と同じような年齢で背格好。
そして、黒く長い髪だった。
これで3人目の被害者だ。
俺は混乱した。
あの男からは目を離していなかった。
だから、犯行は無理なはずだ。
……やっぱりあいつは犯人じゃないのだろうか?
そう思ったが、その考えはすぐに掻き消えた。
俺の勘が言っている。
――あいつが犯人だと。
そこで、俺はあることに気づいた。
俺が尾行を始める前に、既にあいつは犯行を行っていたのではないかと。
つまり、俺が尾行を始めた時にはもう、あの少女は殺されていた。
それなら説明が付く。
だから俺はあの男の尾行を続けた。
あの男はいまだに見つけた少女を尾行し続けている。
しかし、連日の尾行で俺の体力は限界に来ていた。
あの男を見張っているときの、わずかな気の緩みで、俺は数分の間、眠ってしまったのだ。
あの男と、あの男が尾行していた少女を見失ってしまった。
俺は慌てて2人を探した。
だが、見つけることはできなかった。
俺が目を離したすきに少女が殺されてしまったらと考えると、口惜しさと自分への怒りで気が狂いそうだった。
そんな中、あるニュースが流れた。
犯人が捕まったと。
映像に映し出された犯人の顔はあの男のものではなかった。
つまり、警察は誤認逮捕をしたというわけだ。
俺は警察にタレコミという形で、あの男の情報を伝えた。
だが、警察は俺の伝えた情報を無視して、捕まえた男が犯人と断定している。
このままではあの男が野放しになってしまう。
また、妹のような少女が殺されてしまう。
それだけはダメだ。
俺は決意した。
――あの男を殺すしかない。
たとえ俺が捕まることになったとしても。
俺はあの男の部屋に忍び込み、眠っているところを刺した。
何度も。何度も。
男は声を上げる間もなく死んだ。
俺はホッとした。
これでもう男に殺される少女は出ない。
妹にも顔向けができる。
自首するために電話がある部屋へと行く。
すると、そこにはたくさんの少女の写真が貼ってあった。
そして、そこには妹の写真も。
警察に捕まった後、俺はあの男が探偵だと聞いた。
終わり。
■解説
語り部が殺した男は、警察に協力していた探偵だった。
探偵は推理で、次の被害者を予想して少女を尾行していたのである。
語り部の妹に関しても、同様に尾行していたところを見られていた。
そして、その探偵の情報により、警察は真犯人を捕まえることができた。
(探偵のおかげで尾行している少女は助かった)
つまり、語り部は真犯人が捕まっているのに、事件に協力していた探偵を殺してしまったということになる。