本編
俺のじいちゃんは漁師をやっていた。
だから小さい頃からよく、釣りに連れて行ってもらった。
その影響か、俺は釣りに没頭するようになり、就職してからも一人で釣りに行っている。
そんな俺が30歳になったとき、じいちゃんが亡くなった。
じいちゃんは俺に遺産として船を残してくれた。
一緒に釣りに行ったときに船の操縦の仕方は教えてもらっていたこともあり、俺はすぐに船舶の免許を取って、暇さえあれば海に船で釣りに出かけるようになった。
その日も、俺は休日を使って釣りに出掛けた。
いつもとは違い、やはり他の釣り船はない。
多少、不安になりつつも俺は船を出した。
すると途中で釣舩とは違う、小さなクルーズ船を見つけた。
俺はそのクルーズ船に向って叫んだ。
「もうすぐ大シケが来るんで、戻った方がいいですよ!」
だが、甲板にいたカップルに無視されてしまった。
まあ、一応、忠告はした。
どうなったとしも俺は知らない。
俺は俺でシケが来る前に釣りを楽しんで帰らなければならない。
俺には時間がないのだ。
俺はすぐに船を出発させる。
そして、いつものスポットで釣りを始める。
完全に海を舐めていた。
船の操縦にも慣れていたことで、海にも慣れたと錯覚してしまった。
その日は入れ食いで釣りに没頭してしまっていた。
気づいたら辺りは暗くなり始め、波も高くなってきている。
俺は慌てて釣りを止めて船を出発させた。
だが、船の横側にモロに波をくらい、びっくりするほどあっさりと船が転覆した。
一応、救命胴衣を着ていたことが幸いして、沈むようなことはなかったが、何度も波にさらされたことで、完全に混乱して取り乱してしまった。
とにかくうっすらと見える島の方へ向かって泳ぐが全然上手くいかない。
そのとき、ひと際大きな波が俺を飲み込んだ。
そして、遠のいていく意識の中、俺は確かに見た。
――人魚を。
気が付いたら、俺は岩礁に乗り上げていて助かった。
きっと、人魚が俺を助けてくれたのだと思う。
あとで聞いた話によると、俺の忠告を無視したカップルも船が転覆したということだ。
そして、最悪なことに二人はサメに襲われて亡くなったらしい。
■解説
語り部が見た人魚は下半身をサメに咥えられた(食べられている)状態の、カップルの女性だった。