■本編
その男はまさに探偵の申し子のようだった。
男が携わった事件で解決できないことはなかった。
どんな難解な事件でも、難なく解くことができた。
そして、事件なのか事故なのかも判別することもできる男の元には、いつも警察からの協力要請が来ていた。
現場でもその男が到着すれば、周りはもう解決したかのように安堵の雰囲気が漂う。
だが、それも当然のことで、警察がどんなに頭を悩ませたところで、探偵が到着すればすぐに解決してしまう。
事件が起きて、協力要請を受け、現場に行き、事件を解決する。
そんな日々を、男は40年続けた。
だが、そんな男に転機が訪れる。
あるペンションに宿泊に行ったときのことだった。
そこで殺人事件が起こった。
なんの工夫もない、突発的な殺人。
警察がやってくると、その場に男がいることを知り、捜査を男に任せた。
警察はすぐに犯人を見つけ出し、解決するだろうと思っていた。
しかし男は悩んでいた。
いつもなら、すぐに解決するところが、今回に関しては時間がかかった。
そして、ついに男はこの事件を解決することはできないと言った。
警察は驚いた。
初めて男が事件を解決できず、投げ出してしまった。
警察は男が解けない事件が、自分たちに解けるわけがないと早々に諦めた。
その事件の後、男は探偵を引退した。
周りは事件を迷宮入りにさせてしまったことによる罪悪感だろうと考えたのだった。
終わり。
■解説
最後の事件の犯人は男自身。
男は犯人を見つけられない、ではなく「事件を解決できない」と言っている。
男は悩みに悩んだ結果、自首することはできなかった。