■本編
男はユーチューバーで心霊系の動画をアップしている。
いわゆる、心霊スポットに行って心霊現象が映るかという動画だ。
男が最初にバズったのは、実際に映像に幽霊が映った動画でそこからは何とか食べていけるようにまで再生数が上がった。
しかし、回を重ねる事に、ドンドンと再生数は下がっていく。
なぜなら、何度も実際に幽霊を撮ることはできないからだ。
毎回、煽っては何もなかったという繰り返しの動画にファンも飽きてきていた。
このままではマズイと思った男は、起死回生として、テレビや同じように心霊系のユーチューバーをやっている人間でさえ近づかないと噂される森へと行くことに決めた。
男はその森へ入ると同時に、今まで感じたことのない異質な雰囲気を感じた。
来なければよかったと思う反面、これは何か撮れそうという期待があった。
スマホの録画機能を使って、録画しながら男は森の奥へと進んでいく。
すると後ろからガサガサと草をかき分けるような音が聞こえてきた。
明らかに違うとわかっていたが、男は動物か何かだと思い込むことにして、音が聞こえる方にスマホを向けた。
スマホを向けた途端、音が止む。
男は舌打ちをして、さらに奥へと進む。
また音が聞こえる。
またスマホを音のする方へ向けた。
今度ははっきりと姿が映った。
明らかに野生動物ではなく、人間のような姿をした何かが男の方へと向かってきていた。
男は悲鳴を上げた。
恐怖で力が抜け、思わずスマホを落としてしまう。
それでも男は逃げた。
悲鳴を上げながら、とにかく走った。
もう自分でも森のどこにいるのかわからなくなってしまったが、今は逃げるしかない。
走り続けていた男にも、やがて限界が来て、思わず立ち止まってしまう。
同時にドッと汗が噴き出す。
必死に乱れた呼吸を整えながら耳を澄ませる。
自分を追ってきている音はしない。
男は安堵のため息をついた。
すると、後ろからポンと肩を叩かれた。
ゆっくりと振り向く男。
男は叫び声をあげた。
数日後。
男の家族が捜索願を出し、森に捜査員が入って調査をする。
すると、男の所持していたスマホを見つけた。
捜査員はスマホに録画されている映像があることに気づき、再生する。
……そこには男と、その男を追う何かが映っていた。
男が何かに後ろから肩を叩かれ、振り向く。
そこには鬼のような顔をした何かが立っていて、男の胸から白い煙のようなものを取り出した。
男は悲鳴を上げたかと思うと、すぐにその場に倒れてしまった。
鬼のような顔をした何かは、取り出した白い煙のようなものを食べたのち、スマホの方に向かってニコリと笑顔を浮かべたのだった。
終わり。
■解説
男は何者かに追われている「途中」でスマホを落としたはずなのに、「最後まで」映像が残っているのはおかしい。
一体、誰がその映像を録画したのだろうか。