■本編
天気のいい休日。
スマホを見ながらブラブラと歩いていると、ふと肩がぶつかってしまった。
慌てて「すみません」と謝ると、女性も振り返って「ごめんなさい」と頭を下げた。
「気を付けないとね!」
「そうね」
「あ、赤だよ! 止まらないと」
「ありがとう」
僕にぶつかったのは、どうやら親子みたいで母親と女の子が手を繋いで歩いていた。
女の子は張り切っているのか、色々と母親に話しかけている。
「青になったよ、行こう!」
「そこ、段差あるよ!」
「あ、こっち! 左だよー!」
僕はその親子を見て、微笑ましく思う。
新しく弟か妹が生まれるんだろうか?
姪っ子も弟が生まれる前、あんな感じで張り切っていた。
お姉ちゃんになるからと。
その日の夜。
突然、男性が家に尋ねてきた。
一人でふらふらと歩いている女性を見なかったかと聞かれた。
なんでも、行方不明らしい。
その女性は全盲で、杖も家にあったので遠くまでいけるはずがないのだという。
僕は「ごめんなさい。見てません」というと、男性は肩を落として「そうですか。失礼しました」と言い、今度は隣のインターフォンを押して、同じことを隣人に聞いていた。
行方不明なんて物騒だなと思いながらも、気に留めることはなかった。
そして、次の休日。
散歩でブラブラと歩いていると、またあの親子を見かけた。
子供が母親の手を引いて歩いている。
相変わらず元気な女の子だな。
けど……あの子のお母さんってあんな顔だっけ?
終わり。
■解説
女の子は人さらいのメンバーの一員。
女性を連れ出す役目。
最初、語り部が会った女性は「語り部と肩がぶつかって」いる。
そして、女の子が話している内容は、目が見えない人を誘導しているようなものばかりだ。
つまり、子供が誘拐犯の一員だとは思わないという心理的な隙をついた犯罪だと言える。