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■本編
今ってさ、ホントに便利になったよね。
スマホがあればなんでもできる。
逆に言うとスマホがなかったら、ホント不便、何にもできない。
スマホは肌身離さず持つべきだと思うよ。
その日、俺はデートだった。
最近、彼女は研究だか合宿だかで忙しくて全然会えなかったんだ。
だから、久しぶりのデートに、俺は浮かれていた。
こんなことを言うと、小学生かよって思われるかもしれないけど、楽しみで前の日はなかなか寝付けなかった。
で、目が覚めて、壁にかけてある時計を見たら待ち合わせの30分前。
めちゃくちゃ焦ったね。
すぐに用意して急いで待ち合わせ場所に向かったんだ。
まあ、10分遅刻して、彼女に奢る羽目になったんだけど、怒って帰られるよりは全然マシだ。
デートは上手くいって、すげー楽しかった。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
外も暗くなってきし、俺は彼女に、俺ん家で飲まない?と誘った。
けど、明日は1限目から講義があるからって断られてしまった。
そういえば、俺も講義あったかなって思って、携帯でスケジュールを調べようと思ったんだけど、そのときに携帯がないってことに気づいた。
最初はポケットとか、カバンの中にあるかなと思って調べたけど見つからない。
ヤバい。落としたか? って思って、彼女から携帯を借りて鳴らしてみることにした。
彼氏と登録された番号にかけてみる。
周りで鳴っている音はしない。
つまりこの場には無いということだ。
もう一回鳴らしてみる。
誰かが拾ってくれたんだとしたら、もしかしたら出てくれるかもしれない。
しかし、俺の願いも虚しく、誰も出てくれない。
彼女が家に忘れたかもしれないよ、と言ってくれたので、帰って家の中を調べることにした。
家の中を調べてみたけど全然見当たらなかった。
ホント、携帯がないと暇でしかたない。
パソコンも持ってないし、何もすることがなかった。
だから、今日は早く寝て、講義が終わったら携帯屋に行くことにした。
次の日。
なんと、俺の携帯は大学の落し物のところに届いていた。
ふう、助かった。
ホッとして携帯を見ると1件だけ着信があった。
母からだった。
俺は久しぶりに母に電話を掛けた。
終わり。
■解説
彼女の携帯から「彼氏」に登録された番号に掛けたのに、語り部の携帯には母親からしか着信がなかった。
つまり、彼女の携帯の「彼氏」には別の人の番号が登録されていることになる。
そして、しばらく会えなかったのも、彼女が彼氏と会っていたという可能性が高い。